クモたち+α

□内緒だよ。
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「フィンクス、あ〜ん」

「ん」

今日も名無しさんとフィンクスは、仮宿の広間内で仲良くしている。二人が付き合い始めてからは毎日こんな感じなんだ。コンクリートに座っている二人を、俺は少し離れた瓦礫に座って見ていた。
仲良く、といっても恋人同士のそれであり、ふざけてほっぺたにチューをし合ったりと直視できないこともある。

「おいしい?」

「んまい」

昼時の今、名無しさんが買ってきたコンビニ弁当を二人で食べている。弁当は二人前あるにも関わらず、箸は一膳だ。箸は名無しさんしか使わない。何もフィンクスが手で食べてる訳じゃなくて、こうして名無しさんが食べさせてるんだ。
初め見たときはさすがの俺も驚いた。というかフィンクスが彼女を作ることにも驚いたんだけど、まさか彼女にご飯を食べさせてもらうなんて。普通にフィンクスのイメージからしたらそんなことは絶対して貰わないだろう。でも今ここにいるフィンクスは、表情は変えないものの名無しさんの箸が自分のところに来るのを待っているように見える。そりゃお腹がすごい空いてる時は自分で掻き込むようにして食べているけど、こうして時間がある時の昼はたいていこんな感じだ。

「ね、名無しさんも食べたい」

「ああ、食べればいんじゃね」

「もー、フィンクスに食べさせてもらいたいの!」

「……。しょうがねえな」

名無しさんが頬を膨らませると、フィンクスは名無しさんの手から箸を奪った。そして卵焼きを摘むと、落とさないようにしながら名無しさんの口に入れた。普段ガサツなフィンクスからは想像もできないことだ。

「んー。おいしい!」

「良かったな」

なんだろう、フィンクスは怒る時以外は感情が外にそれほどでないんだけど、今はほんの少しだけ機嫌がいいのが見て取れる。いくら彼女とイチャついてるからってニタニタしたりはしないけど、表情が少しだけ柔らかいんだ。

俺は少し考えたんだ。どうしてフィンクスが彼女を作ったんだろうって。まあ本人に聞いてみるのが一番早いんだけど、なぜか聞けないし、聞いたら意識してなくてもノロケられそうで嫌だった。
今まで俺の知る限り、フィンクスが彼女なんて作ったことはない。いつの間にか名無しさんと仲良くなったなあっと思ったら、いつの間にか二人はそういう仲になってた。俺の入る隙間がなかった。相性が良かったって言ったらそれで終わりなんだけど、それでも俺は名無しさんと仲良くできてる自信はあったし、名無しさんが好きなアイスやクレープだって買ってあげた。名無しさんが望んでいるもの、俺が全部叶えてあげたくて、一緒に遊びにだって行ったりしたんだから。名無しさんが観たい映画を観て、食事は名無しさんが食べたいものを食べて。

それに比べて、フィンクスは何もしなかった。ただ名無しさんと喋ってるだけ。名無しさんに何かを言われたり頼まれたりしたらそれに応えるだけで、たまに自分のラーメンとかは分けてあげてたみたいなんだけど俺のが名無しさんの役に立ってると思ってた。


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