クモたち+α
□陰に溶ける
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「よっと」
「おわっ!?」
名無しさんの小さな体がふわりと浮き上がる。軽々と持ち上げられた名無しさんは、そのまま梟(ふくろう)の大きな肩に担がれた。
「ふ、梟っ?」
「お前は歩くのが遅いから、俺の肩な」
「自分で歩けるよ、まだ時間もあるでしょ?」
拗ねたように頬を膨らませながらも、名無しさんはほとんど抵抗しない。普段のらりくらりしていて掴みどころのない梟だが、こういう時は「譲らない」という行為を自然としてしまうのだ。
現に彼の表情はいつもと変わらない。
「時間がなくなってから急ぐんじゃ遅いだろ?」
「……梟って意外と几帳面だよね」
「マフィアの連中はけっこう時間にうるさいからな」
肩に担がれた名無しさんは、器用にくるりと体勢を整えて抱えてくれる梟の肘に腰掛ける形になった。梟が優しく反対の手で名無しさんを支える。
「今日はヨークシンの次にでかいオークションの打ち合わせだったよね?」
「ああ。蚯蚓(みみず)や病犬(やまいぬ)も来るぜ」
「ほんと!?」
名無しさんの顔がパッと明るくなる。梟の腕の中でピョンと名無しさんの体が跳ねた。梟は、まるで幼い子をあやす様に名無しさんの腕を支えている腕で器用にポンポンと叩いた。
「あと蛭(ひる)と豪猪(やまあらし)もな」
「おおー、陰獣の半分がお出ましですな!」
嬉しそうに笑う名無しさんに梟も微笑む。とても闇の世界で生きる人間だとは思えないほど和やかな雰囲気を纏っていた。