クモたち+α
□幼少暗黒
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闇に向かって走り行く様は、猟奇的なものすら感じた。
チカチカと点滅する蛍光灯は名無しさんのなびく髪をしっかりと捉え、俺はその姿を何の気も入れずに見ていた。
「あいつどこに行ったんだ?オーラ全開だな…」
「殺しに行ったんだよ」
「誰を?」
走って行く名無しさんをアジト内から見つめる俺の後ろ、フランクリンが不思議そうに声をかけてきた。
俺はただそよぐ風を感じるだけで、フランクリンの問いには瞼を下げてから答えた。
「“分かってない人間”をだよ」
「分かってない人間?…事情は知らねえが、あんな殺気の強え名無しさんはめったに見ない。大丈夫か?」
俺の横に立って、名無しさんが走っていったほうを見つめているフランクリン。
俺もフランクリンと同様、ちょっと心配しているんだ。
あまり感情的になることのない名無しさんが頭に血を上らせ、俺の制止を振り切り即席でターゲットとなったやつらの元へ。
「誰にでも許せないものはあるからね。名無しさんはそいつらを倒しに行った。戦闘においては何の問題もない」
「……そうか」
良く理解できないだろうな、今の俺の説明だと。とりあえず決して危険なターゲットじゃないことを伝えておけば平気だろう。
戦闘において、本当に何の問題もないのだから。
俺と名無しさんはさっきまで、何の気なしにパソコンを見ていた。
名無しさんは親を殺害することについてを取り上げた討論サイトを目にして、そこで目を赤くさせた。
『今まで育ててくれた人を殺すなんて考えられない。誰がここまで幸せに健康で育ててきてくれたか考えて欲しい』
これはそのサイトに乗っていたいわゆる親を殺害することについての、反対派のやつの意見だ。
反対派のやつらはだいたいこんな感じの主張ばかりで、本当の不幸を知っている名無しさんには耐えられなかったのだろう。
俺はそんな一般人の意見なんて気にしなくていいって言ったのに、それでも名無しさんは反対派のやつの個人データを特定し殺しに行った。
名無しさんは掴まれた腕を振りほどく時にパソコンの画面を睨み、「幸せなやつらに何が分かる」と言い残して。
俺は最初から止める気なんてなかったのかもしれない。俺ら旅団のメンバー含め、本当に幸せに育ったならここにはいないと思うんだ。
特に名無しさんはそうだった。親の愛情どころか憎しみばかりを叩きつけられてきた。結果として名無しさんは両親を殺したあと、旅団に入ったのだから。