クモたち+α
□幼少暗黒
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「……と、こういう訳なんだけどね」
俺が気まぐれに概要だけ説明すると、フランクリンはため息をついた。
「バカだな、あいつも…。お前、くだらないこと名無しさんにやらせんな」
至近距離でフランクリンに睨まれると辛いものがある。俺はそんな視線を全身で受け止めながら気まずそうに口を開く。
「……名無しさんがやらなかったら、俺がやってたかもしれないし…。なんてね」
「おいおい、悪い冗談は止せよ。いつまでも“不幸”を引きずる玉じゃねえだろ」
「それもそうだね」
俺はウソをついたのだろうか。
名無しさんと家庭事情は違うとしても、別に子供のときのことを引きずっているわけじゃない。俺は特に自分の親のことは何とも思ってないけど、ただ名無しさんの気持ちが痛いくらいに分かっちゃって。
怒りの中にちょっとだけ混ざっている悲しそうな顔を見たら、何をどうしたらいいか分からなくなったんだ。
「ま。あいつはまだ思春期みたいなもんだ。シャル、もっと可愛がってやれよ」
「え、俺!?」
「同じ操作系だろ」
「念の系統関係ないって!」
「じゃあ同じ不幸な人間としてよ」
フランクリンの長いピアスが揺れる。俺は苦笑いとしてフランクリンもでしょ、と言うと小さく昔の話だな、と返ってきた。
名無しさんが血まみれでアジトに戻ってきたのは、それから4時間後のことだった。
「お帰り」
「派手にやったな」
広間に入っていた俺とフランクリンが言う。
名無しさんは半分うつろな目でグレーの床を見ていた。
「……」
「疲れた?」
「……ん」
「今日はもう寝ちゃいなよ」
広間に二、三歩足を踏み入れただけの名無しさん。顔や髪にも血はつしっかりといていて、俺の背中はぞくりとした。
「…スッキリしたけど……、何も変わらなかった」
名無しさんの言葉に俺とフランクリンの意識が集まる。爪に入った肉を落とし、赤に染まった手を床と同様にぼんやりと眺めた。
「分かってない人間が減ったのは良かった。けど……」
「……ん?」
「あたしの真ん中、何も変わらなかった……」
名無しさんは続けた。
「怒りも悲しみも空虚な感じも、過去も。変わらない。癒されたのは一瞬だった」
それから名無しさんは殺してきたやつらの最後の時の顔や、自分の詳しい過去や気持ちについて具体的に話した。俺に話してくれた時よりもずっと詳しく。
鮮明に思い出されるそれはまるで最近のことのように語られた。
俺とフランクリンはそれを黙ったまま聞いてきていて、そうだな、時間はどれくらい過ぎたのだろう。