クモたち+α
□内緒だよ。
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「フィンクス、そのニンジンの煮物食べたい」
「あー、これ食っていいよ。俺ニンジンいらねえから」
「ニンジン嫌いなの?子供みたあい」
「ばかやろ、ニンジンの煮物が嫌なだけだよ」
「うそばっかりー」
「ハンバーグについてるニンジンは食ってるだろ」
確かにー!、そういう名無しさんとフィンクスはすごく楽しそうだ。本当だったら名無しさんの隣には俺がいるはずだったのに。何もしてないフィンクスが、どうして名無しさんの隣にいるんだろう。別にフィンクスが嫌だとかっていうんじゃない。ただ、ただ疑問なだけなんだ。どうして俺じゃなくてフィンクスなんだろうって。
「……ル、シャル」
俺だってこの前までは名無しさんと一緒にご飯を食べてたんだから。もちろん二人きりで。その時名無しさんとはファミレスにいて、名無しさんはスパゲティを頼んでた。口にミートソースつけてたから、俺が腕を伸ばしてティッシュで拭いてあげたんだ。そしたら名無しさんは愛らしい無邪気な顔で、自慢のそのふっくらした頬を上げながら「ありがとう」って言った。
「シャル」
俺とフィンクス、何が違う?女の子って優しい男の子に弱いんじゃないの?そりゃ優しいだけの男なんてダメかもしれない。だけど俺は時々人に甘えすぎてるところがある名無しさんがしっかりできるように促したりした。
もしかしたら、名無しさんはそっけない人がタイプなのかもしれないと思った。でも名無しさんが前に聞かせてくれた元彼はすごく名無しさんを可愛がってらしい。俺はそれを参考にしたわけだけど、情報収集が足らなかったのかもしれない。まさか名無しさんがフィンクスみたいなタイプを――
「シャル」
「……え?」
瓦礫に座ってぼんやりと名無しさんたちを見ていた俺の頭の上、そこから降ってきた声にハッと顔を上げた。
「仕事の資料だ」
いつの間にか俺の前にいた団長が、クリップで止まっている資料を俺に向けた。俺はなんだかその資料を受け取る気がしなかったが、俺の体は自然と動きその資料を受け取った。
「……ああ、見取り図ね」
「今回は少し建物内が複雑だからな」
団長は相変わらず淡々と話をする。
今日は特に仕事関係で広間に集まったわけじゃなかった。ただ時間がある時は、仮宿にある個室からみんなこうして顔を出すだけだ。だから団長はいつものコート姿でもなければ、スーツ姿でもない。
「……」
「どうした?」
俺は団長の服を見た。
黒のシャツに黒のズボン。団長は本当に黒が似合うし、男の俺から見てもカッコイイ。一瞬、団長みたいに俺もカッコ良ければなと思ったけど、きっと名無しさんはそんな理由じゃ俺のことを好きになってくれないだろう。
「団長ってさ、その服どこで買ってるの?」
理屈で色々考えても、結局は聞いてしまう。俺には団長が着るような服は似合わない。分かってるけど、でもちょっとでもカッコいいほうが名無しさんはいいんだろうと、俺の思考はまとまることを知らない。