クモたち+α

□内緒だよ。
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きっと、どう足掻いても無理なんだろう。俺と名無しさんが結ばれるなんて。
例えば、名無しさんが団長みたくカッコイイ男が好きだったとする。そしたら紛れもなく名無しさんはさっきまで俺の前にいたカッコ良さの塊のような団長を好きになっていたはずだ。でもそれはなかった。
例えば、名無しさんがノブナガみたく友情に熱い男が好きだったとする。そしたら紛れもなくウボォーの仇を取る為に刀磨きに力を入れるノブナガの傍にいるはずだ。でもそれはなかった。

気づけばバラエティ豊かな旅団員と、名無しさんがどうやって付き合ってきたかを考えてみる。クールでカッコイイ男でもない、熱い男でもない……。それじゃあやっぱりそっけない男がタイプなんだと思ったが、名無しさんの元彼のことを考えるとやっぱり違う。

本当に思考に脈略がなかった。
欲しいものは奪えという旅団の思考からは遥か遠いところに俺はいた。与えても与えても振り向いてもらえない。奪うどころか奪おうとする計画すら立てることはできない。

結局は、きっと特別な理由なんかはなくて名無しさんはフィンクスだから好きになったんだろう。名無しさんを甘やかす訳でもなく、厳しくするわけでもなく、それは俺が旅団にいる理由にも似ていた。
ここが居やすい、ただそれだけなんだ。ここが俺のポジションだと思うし、もしかしたら名無しさんも、自分のポジションはフィンクスの隣だということを感じているんだと思う。きっとそれはフィンクスも同じ気がする。

俺はいいかげん、覚悟を決めた方がいいのかもしれない。

名無しさんが幸せで、フィンクスも幸せ。それでいいじゃないか。
俺のセカンドポジションはどこなんだ、とか上手いことを思いながらもこの恋に終わりを告げようとした。

「シャル!」


小さな体がパタパタと走ってきた。

「これ、シャルも食べる?」

「……ゴボウサラダ?」

名無しさんは自分の分の弁当と箸を持ちながら、俺の隣にちょこんと座った。

「うん!」

ゴボウサラダには細くて薄めに切られたニンジンが一緒だった。俺はそのニンジンを見てフィンクスを思い出した。さっきの会話が耳に残ってるせいだ。ニンジン見て自分のことを思い出されるフィンクスがちょっと可哀想かなって思ったけど、これから先俺はニンジンを見るたびフィンクスを思い出しそうな気がする。

名無しさんはゴボウサラダを箸で掬うと、俺の口元に近づけた。


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