クモたち+α
□内緒だよ。
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「はい、あーん」
「えっ……」
まずは名無しさんが俺に食べさせようとしてることにびっくりした。そしてそれは名無しさんの箸で、だしというか何よりフィンクスがいる。一瞬嬉しく思ったけどさすがにそれはヤバイだろう。
だけどフィンクスといえば自分の分はもうすでに名無しさんに食べさせてもらったようで、ライターをシュボ、シュボっと親指で回してタバコに火をつけていた。口に運び、フゥーと大きく煙を吐き出す様子は、自分の彼女が他の男にこんなことをしようとしても、気にしないように見える。
「シャル? ゴボウサラダ、嫌い?」
首を傾げながら顔を覗かれた。名無しさんのクリッとした目が不思議そうに俺を見る。
「ううん、それじゃあ頂いちゃおうかな」
フィンクスはこちらを見てはいなかった。殺しと彼女以外興味がないのかもしれない。俺はそれをいいことに、口を僅かに開けた。
「良かった!あーん」
名無しさんの笑顔がこんなにも近くにある。もうゴボウサラダの味なんて分からないよ。
名無しさんは俺がモグモグ噛んでいるのを見ると、ニッコリと笑った。
「どお?おいしい?」
「うん、おいしい」
確かにおいしいと言えばおいしい。でもやっぱり味は良く分からない。名無しさんがこうして隣にいてくれることだけが、嬉しかった。思えば名無しさんがフィンクスと付き合う前、名無しさんとデートできてた頃がもどかしかったにしても一番良かったんじゃないかと思う。
「私フィンクスの分の煮物も食べてさ、お腹いっぱいになっちゃって」
そういってヘヘッと笑う名無しさん。照れた笑いも、もう何もかもが可愛らしい。じわじわと触れたい衝動が体の奥から疼いてくる。だけどそこには決して意識を向けちゃいけないんだと、自分に言い聞かせる。これ以上俺に望みはないんだから。
「あ、別に残り物をあげようと思ったわけじゃないよ!? なんてゆうか、このゴボウサラダは本当においしいの!」
「……はは、分かってるよ」
少しだけ乾いた笑いが出た。そうやって変な気を回しちゃうところも好きだけど、やっぱりこれ上は、本当にもう――。