ノブナガ
□ノブナガの苛々日記
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俺が広間に入って行くと、そこには楽しそうに喋る名無しさんの姿があった。直にコンクリに座り込み、手を叩きながら膝を少し立てた足をパタパタとさせていた。
いつ見ても名無しさんは可愛い。大口あけて笑う女なんて好きじゃねぇが、そんなのが許せちまうほど可愛いんだ。そんな名無しさんをいつだって一人占めしちまいたんなんて、柄にもなく思っている。そんな自分がいると思うとバカらしく感じるも多少恥ずかしい。
俺は名無しさんに触れたことがない。名無しさんがこけた時に手は貸すことはあったが、スキンシップとやらで触ったことはないんだ。
特にこげ茶の綺麗な髪、触ってみてぇ。名無しさんって頭撫でられたりとか好んだりすんのかな。
「あ、ノブナガっ。おはよー!」
すっかり名無しさんに見とれちまってた。声を掛けられて初めて自分が棒立ちだったことに気づく。まったく情けないったらありゃしねぇ。
「よっ」
片手を上げ、いつもの自分で振る舞おうとした。毎日こうして名無しさんが笑顔で掛けてくれて、俺はかっこつけて「よっ」なんて言う。
いまの状況がもどかしく、でも悪くねぇんだ。
「あ、でも『おそよー』だね。もうお昼前だよ」
名無しさんが動くごとに揺れる髪はやっぱりすげぇ綺麗で、今すぐにでも触ってみたかった。
もう、触っちまおうかな。
「ってあー!! フィンクスてめぇ!!」
名無しさんの隣で喋ってたフィンクスが、俺の名無しさんの髪触りやがった! 俺より先に!
俺は慌てて名無しさんに駆け寄る。
「んだようっせぇな、ゴミ付いてたからとっただけじゃねぇか。まぁゴミっつうか米粒だけど」
「うっそやだぁ! なんで頭にお米ついてるんだろっ〜。へんなの」
「それはお前がヘンだからだろ」
楽しそうにしやがって。俺はいつの間にか拳を入れていたが男らにむかついてるのはいつものこと、いちいち苛々してっと体がもたねぇから、ここはなんとか堪える。