クモたち+α
□陰に溶ける
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名無しさんと梟は高層ビルを出ると再び来た道を戻っていく。星が輝いていて人並みに紛れるようにして歩いた。“歩く”と行ってもそれは梟だけで、名無しさんは行きと同様に梟の腕に座っていた。
「あ〜あ……」
残念そうに名無しさんが呟く。その顔に先ほどの笑顔はない。
「どうした?」
「私も陰獣のメンバーに入りたかったなあ……」
視線を下げると梟の草履が目に入った。大きな足がのんびりと、けれどしっかりとコンクリートを蹴っている。
「唐突だな」
「だって、陰獣のメンバーなら9月のヨークシンの競売出れるもん」
「まあ仕方ないだろ。頭が選んだんだし、こっちから立候補することはできねえ。頭も一人しか選出できない」
「分かってるけどさー……」
「不満か?」
「もっと梟たちと仕事したいよ……」
落ち込むような名無しさんを梟の大きな瞳が見つめる。
「……もともとお前は武闘派じゃないだろ」
「うう、頑張ってるのに……」
「……悪かったよ」
声を震わせる名無しさんを梟が今日何度目か知れぬ、腕を優しく叩く。名無しさんにとってはこれが無意識のうちに安心の材料となっているのだ。
梟もそれを分かっている。
「お前は……そうだなあ。今回の仕事のあと、頭に頼んでみるか」
「え、本当!?」
「ああ。たぶん却下されるだろうけどな。他の頭に反対されるだろうし」
「もう!だったら言わないでよ!」
梟の頭をぽかぽかと叩く名無しさんに内心少しだけ微笑んで、梟は先を歩いた。
二人は、ざわついた人ごみを抜ける。まるで自分たちしかいないように、周りの人間にはまったく興味を示さず、溶けるようにして静かに闇の中に消えていった。
街中には陰すら残さない。