長編・夢

□イケナイ恋心
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――銀色の髪に、褐色の肌。

 朝の自己紹介で見た顔と目が合った。そして―――

ドキン、とした。

 だって寡黙(かもく)な彼の表情が、ほんの一瞬だけ、フワリと安堵の形へ変わったから。

「‥‥つかまって」

 すぐに元の寡黙な顔に戻ったけれど…でも。

トクン、トクン‥

 小早川くんの今の表情‥もしかして彼の素(す)だったのかも? ちょっとビックリしたけど、でもすごくイイ感じだったわ‥

「あ‥ありがとう…小早川くん」

 そんな不謹慎なことを思いながら、私はぎこちない笑顔で彼の手を取った。

「‥‥教材」

「集めてくれたの‥‥、小早川くんて‥」

 ‥確か、スポーツ特待生だったわよね…。無愛想なのは表面だけで、実はとっても気が利く優しい子なのかも‥。

 それに間近で見るとかなりイケメン君だし‥モテるんだろうな、きっと。‥――ってストップ、ストップ!!

「ち、力持ちなのね」

 言って『しまった』と思いながら、慌てて私は笑顔を作った。

 あーもうっ 仮にも生徒にこんな気持ちを抱くなんてっ

 しかもこの場に似合わない、ごまかしバレバレなこと言っちゃうし‥ダメすぎるわ、私…

 教材を受け取りながら、もっとしっかりしなくちゃ!と私は心の中で気合いを入れ直した。

「‥‥‥先生」

「え、なぁに?」

 やっぱりさっきの返答、変すぎだった? ど、どうしよう…‥あれ? なんか小早川くん、顔、赤くない?

「脚」

「脚‥‥?」

 彼の視線を辿って自分の脚を見ると、ものの見事に内股の太もも辺りから足首まで、ストッキングが‥…

――っっ‥うぁ‥

「キャーッ!!パンスト思いっきり伝線しちゃってるー!!」

恥ずかし過ぎる―――っっ////

「‥‥気をつけて」

「あ、ありがとう‥‥」

 耳まで真っ赤になりながら小さくお礼は言えたけど‥うわ〜ん、まともにキミの顔、今、見れないよ〜っっ

 ギュッと教材を抱きしめて俯いたまま、棒立ち無言の私と彼の間に、数秒、沈黙が流れた。

 すると彼はそのまま、何も言わずに立ち去って行った。

 もしかしなくても、気を使わせちゃったよね‥。

 小さくなった彼の後ろ姿を見つめながら、私は今日、3回目のため息をついた。

「は〜あ、恥ずかしい‥替えのパンスト持って来てて良かった‥」

 そういえば深國くんから『ため息の数だけ幸せが逃げる』とか言われたっけ。

 あれから一度も授業に顔を出さなかったし‥1番の問題児は彼なのかもなぁ。

「でも‥小早川くんてすごく優しいのね‥何だか頼りがいもあって‥って何考えてるんだろ、私ったら‥」

 少なくとも私の問題児リストの中から、小早川くんは外して良さそうだわ。

 というか、私の彼に対する心境の方が問題‥ううん、大問題になるような気がする‥

 けど、本人にバレなきゃ‥良いよね? ちょっとくらい、ときめいても‥
To be continued...
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