うさぎの飼い方
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「あ…えと、」
真っ直ぐ睨みつける目に萎縮してしまう。
言葉がうまく出てこない。
「あの…ま、迷ってしまって…」
やっと出た言葉は、思った以上に小さな声で、土方さんには聞こえなかったかも知れない。
聞こえたかな、と遠慮がちに目を向ければ、開いた瞳孔がこちらを見ていた。
「はァァァ?!」
「ひゃ!」
「は?!お前今なんつった?迷ったって言わなかったか?」
「は、はい…迷ったって言いました…」
突然大きな声を出すものだから、びっくりした。
バクバクと心臓がものすごい音をたてている。
「おまっ、ここ屯所内だぞ?!普通迷うか?」
「…うぅ」
痛いところをつかれた。
言い訳も出来ず、頭と一緒に耳もうなだれる。
「おい」
「…はぁ」
「案内してやるからついてこい」
…あれ?
きっとバカだとか、ふざけんじゃねぇとか罵声を浴びせられて、最後には置いていかれるぐらいの覚悟をしてたのに。
「おい、早く来い」
その声にハッと顔を上げると、土方さんは既に私の前を歩いていた。
また迷ったら困るので、慌てて土方さんの後ろに着いていく。
「山崎は一緒じゃなかったのか?」
これまたびっくり。
きっと部屋に案内されるまで無言なんだろうと思っていたのに。
「女中さんの所までは案内して頂いたんですけど…」
「はぁ…お前も迷ったなら声出せよ。屯所なんだから誰か出てくんだろ」
「そうでした!」
誰か待つんじゃなくて、声出せば良かったのか…。
それは思いつかなかった。
今度からはそうしよう。
「ほら、着いたぜ」
土方さんが立ち止まった場所は確かに、先程山崎さんが案内してくれた私の部屋の前。
「わぁ、着いた!」
「当たり前だ」
「あの、ありがとうございました」
「早く屯所内覚えろよ」
そう一言だけ言って土方さんは隣の部屋に入っていった。
そうだ、隣の部屋って言ったっけ。
それを見送ると私も部屋に入った。
「はぁ」
部屋に入って真ん中に座り込めば、一気に疲れが出てくる。
長い1日だったなぁ
着物を脱ぐのも億劫で、そのまま畳にゴロンと寝転がれば、眠気が襲ってくる。
土方さんって怖いけど、本当は優しい人なのかも…
部屋まで案内してくれたし。
明日から、私ここで頑張るんだ。
見ててね
お母さん
眠りにおちる瞬間、頭に浮かんだのは優しく笑うお母さんの顔だった。