ねがいぼし
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空ちゃんが万事屋に来てから早くも数週間が過ぎた。
最初は接するのに少し戸惑ったけど、今はもう慣れた。
空ちゃんも、僕達を信用してくれているのか、甘えてくれるし、最近では少しだけ我が儘も言うようになった。
と言っても、空ちゃんの我が儘なんか、この年齢の子どもからしたらまだまだ可愛いものだと思う。
銀さんも最初こそ空ちゃんが泣く度に、慌てふためいていたものの、最近では扱いが上手くなってきた。
「ごちしょーしゃま」
「こら、まだ残ってんぞ」
「…おしまいにする」
「全部食べるまで終われません!」
「…うぅっ、ふぇー」
「泣いてもだめだぞ。ピーマンだけきれいに残ってんじゃねーか。ほら食え」
スプーンでピーマンをすくうと、空ちゃんの口の前にほら、と持って行く。
「いやいや!ふっ…うぇーん!」
「いちご牛乳」
「…ヒック…ヒック…たべりゅ」
「ほれ」
「…あむっ」
意を決して食べたようだけど、なかなか飲み込めないらしく、ずっともぐもぐ口を動かしている。そしてたまにえづいている…
「…空ちゃん、大丈夫?」
心配そうに聞けば、涙で潤んだ瞳でこくりと頷いた。
あー、この子本当にピーマン嫌いなんだな。
そう思っているとついにゴクンと喉が音をたてて、口の中の物がなくなったことを知らせる。
「…ごっくんできた」
「偉い!頑張ったじゃねーか空!」
銀さんが空ちゃんの頭をわしゃわしゃと撫でれば、泣きそうになっていた顔があっと言う間に笑顔に変わった。
銀さんに誉められている時の空ちゃんは本当に嬉しそうだ。
「空がんばったよ!」
「じゃあご褒美にいちご牛乳入れてきてやるよ」
「やったあー!」
ソファーから立ち上がり、冷蔵庫に向かった銀さんを見送った後、空ちゃんが僕を見て言った。
「ちんぱち、いちごぎゅにゅーってすっごくおいしいんだよ!ちんぱちにもひとくちあげりゅね」
ありがとう、そう答えた僕の顔は盛大ににやけていたと思う。
銀さんが戻って来る前に早く顔を元に戻さなくては。
そう思っていると、万事屋に1本の電話が鳴った。