ねがいぼし
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ママはいつもおこってた。
空がなくと、またおこってた。
でも空がなかなくても、やっぱりおこってた。
ゴトン、と音を立ててコップが倒れて、中に入っていたお茶がこぼれた。
「あんた何やってんの?!」
「ご、ごめんなしゃい」
「どうしていつもいつも余計なことばっかすんのよ!」
「ごめ…なしゃ…」
空の目から涙が溢れると、母親はより声を荒立てた。
「ほんとに腹が立つ!あんたなんか産むんじゃなかった!私の人生めちゃくちゃだわ!」
その辺にあったタオルをひっつかみ、空に向かって投げ捨てる。
「あんたがこぼしたんだから、あんたが片付けるのよ」
そう一言残すと、泣いている空を放って、母親は外へと出て行った。
「ママ!まってぇ!」
慌てて追いかけ足にしがみつく。
「どこいくの?おいてかないで!」
面倒くさそうに空を見下ろすと、足から引き離し無表情で言った。
「いい?あんたが悪い子だから私は怒るのよ。いい子にしてたらすぐに戻るわ」
「…ヒック…空、いいこにす、るから…」
その言葉が言い終わるよりも先にドアが閉まる。
残ったのは母親のキツい香水の匂いだけ。
それでも空は母親の事が好きだった。
キツい香水も、綺麗に着飾る洋服も、厚いメイクも、全て好きだと思えるほどに。
いつか帰ってきてくれるのを、玄関で待っていた。
ひとりぼっちで。
ねぇ、ママ。
空いいこにするよ。
まってるよ。