ねがいぼし
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けれどその日から空の母親が帰ってくることはなかった。
次に玄関のドアが開いて部屋に入ってきたのは顔も知らない大人。
驚いている内にあれよあれよと事が進んでいき、気が付けば施設へと預けられていた。
「今日からここが空ちゃんのお家だからね」
「…ちがうよ。空のおうち、ここちがう…かえりたい」
「前のお家にはもう帰れないのよ」
「っ…、だってママかえってくりゅもん」
「ここで先生と一緒にお母さんが帰ってくるの待とうね」
目に涙を浮かべる空の手を握り、声をかけるが、空はそれを振り払った。
「空、わるいこだから…ママおこったの。ママにごめんなしゃいするの…!」
先生が困った顔をしているのが分かる。
けれどだからといって涙をとめることも、家に帰りたい気持ちを抑えることも出来なかった。
それから数ヶ月。
相変わらず母親が迎えに来ることはなかったが、施設の生活にはそれなりに慣れた。
そんなある日、本棚で1冊の絵本を見つけた。
小さく、それでも綺麗に輝く星と、それに願いを込めるお姫様の表紙。
何となく惹かれて、先生の元まで走った。
「せんせっ!これよんで」
「あら、空ちゃん珍しいわね。いいよ、おいで」
優しく手をひかれ、先生の膝の上にちょこんと座る。
話の内容はすごく簡単なものだった。
悪い魔女の手によってお城に閉じ込められたお姫様は毎日お城の中で、小さいけれどどの星よりも綺麗に輝きを放つねがいぼしに王子様が助けに来てくれることを願い続ける。
やがてお姫様の願いが通じて、王子様が悪い魔女を倒しにやってくるのだ。
無事魔女を倒した王子様はお姫様を救いだし、二人はめでたく結婚。
どこにでもあるようなおとぎ話。
けれどその絵本に空はとても惹き付けられた。
「せんせ、空もねがいぼしみちゅける!」
「じゃあ今日の夜、一緒に窓から見てみようか」
「うん!」
それから空は毎日星を見上げてはねがいぼしを探すようになった。
空いいこになります。
だからおほししゃま、おねがいします。
ママがおむかえにきてくれますように。