短編

□君のためなら
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ミーンミーンミーン


朝からセミの鳴き声が頭に響く


ミーンミーンミーン


うるせぇ…
こっちは徹夜で書類仕上げて寝不足だってのに、なぜ虫ごときに睡眠を邪魔されなきゃいけねぇんだ。


ミーンミーンミーン


あれ、なんか音近くね?
どこで鳴いてんだ?


眠い目を仕方なく開ければ、視界に入ってきたのはセミ。


「うおぉぉお!」


予想外の出来事に慌てて布団から這い出ると、そこには俺の声に驚いた我が妹の夢子の姿。


「…なにしてんだ?」

「ムイムイみつけた」


麦わら帽子をかぶり、肩から虫カゴをぶら下げ、片手には虫取り網、反対の手には問題のセミ。


「その格好どうした?」

「そーちゃんとムイムイさがした!」


あいつ…仕事サボって昼寝するくせに、朝早くから夢子と虫取りしやがって!


「で…それか?」

「そーちゃんが、ムイムイがにぃにおこしてくれるってゆってた」


あんの野郎…後でたたっ斬る!

しかしニコリと無垢な笑顔を見せる夢子にはまさか怒れねぇ。


「あ、ありがとよ…」


引きつる笑顔で頭を撫でれば、うん!と元気な返事。


「次は夢子が起こしてくれ。そっちの方が兄ちゃん嬉しいから。」

「じゃあ、明日からにぃにのこと夢子がおこしたげるね!」


そんな可愛いことを言いながら抱きついてきた夢子を軽々と受け止めると、片手に持っていたセミを離してしまったのか、開いていた窓からセミが飛んで逃げていった。


「あっ!せっかくつかまえたのに…」

「また捕まえりゃいいだろ」

「うぅっ…」

「な、泣くな!今から兄ちゃんと探しにいくか?なっ?」

「やったあ!にぃにだいすき!」


仕方ねぇ
仕事は後回しだ



君のためなら

ミーンミーンミーン
(あ!ありさんいた!)
(アリじゃなくてセミな)




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