短編

□願わくは、
1ページ/1ページ




俺は確かに寝ていろと言って部屋を出たはずだ。
けれど部屋に戻ってみれば、布団にすら入らず窓にへばりつく姿に呆れてため息がこぼれた。


「あ、しんにーちゃ!もーおしごとおしまい?」

「…先に寝てろって言っただろ」

「おかえりー」

「なに起きてんだ」

「しんにーちゃ、まってた」


ポツリと言われたその言葉。
そう言われると何も言い返せなくなる。
けれどその割りに窓から動こうとしない。

不思議に思い窓に目を向けて、その理由が分かった。


「通りで冷えるはずだ」

「ゆき、しゅごいねー」


外は雪がちらついていて、それは降りやむ様子もない。
きっと今晩は降り続けるのだろう。


「つもるかなー?」

「たぶんな」

「ひひっ、たのしみだね!」


残念ながら雪で喜べるほどガキじゃねぇ。
だが、こいつの嬉しそうな顔を見ると、それも悪くないと思う。


「おら、もう寝るぞ」


部屋の寒さに手足が冷たくなってきて、敷いていた布団に入る。
未だ窓にへばりついていた夢子に声をかければ、しぶしぶ布団に潜り込んできた。

俺の隣にちょこんと収まったその体は、思っていたよりも冷えていて驚いた。


「チッ、どれだけ見てたんだ」

「あした、ゆきだるまつくろうね」

「さっさと寝ろ」

「おっきーのがいい!」

「うるせー。いい加減目閉じろ」


興奮して喋り続けてなかなか寝ようとしない夢子にため息をつきながら、冷えきった体を暖めるように抱え込んだ。


「しんにーちゃ、あったかいー」

「おめェが冷たすぎるんだ」


猫のように体にすりよってくるのをもう一度抱えなおせば、しばらくしてすぐに聞こえてきた寝息。

温かくなってきた夢子の体温が眠気を誘い、俺も目を閉じた。



願わくは、
(目覚めた時にはしゃぐ君が見れますように)



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ