追憶モラトリアム

□三千世界の鴉を殺し
1ページ/1ページ


ふと、ヨハンは目を醒ました。
窓の方を見やれば、まだ夜は明けていない。
全く、奇妙な時間に目を醒ましてしまったものだ。

「むー…」

もぞもぞと自分の腕の中で身じろぎする十代を見て、ヨハンは苦笑する。
昨日は随分と無理をさせてしまった。
疲れているのも仕方ない。
そうして思い出されるのは、昨夜の十代の姿だった。

何度体を重ねても慣れないのか、戸惑いを帯びて潤む瞳。
桜色に染まる細く引き締まった体。
涙が伝う頬は薔薇色に上気し、互いの呼吸を交換し合う。
縋るように腕は背にまわされ、爪を立てられる。
必死にヨハンの名を呼ぶ声は吐息交じりで、官能を刺激する。

「んん…よは…」

もごもごと寝言を言いながら、十代はヨハンの胸にすり寄ってくる。
その仕草がひどく幼く、思わずヨハンの顔がほころぶ。
腕の中の存在が愛しくて愛しくて堪らなかった。
優しく髪を梳いてやると、その頬に指を這わす。
さわり心地の良い肌。
ぷにぷにとつついてやると、十代は眉をひそめた。

「ああ、もう…」

可愛すぎて、幸せすぎて堪らない。

このまま朝が来なければいいのに。
朝が来てしまえば、十代は放浪の旅に戻ってしまう。
次にこうして情を交わせる時が、いつになるかわからなくなる。
離れていても心は共に、だなんて綺麗事だ。
一度情を交わしてしまえば、人はどんどん欲張りになっていく。
十代を独占したくてたまらなくなる。

だから、朝など来なければいい。
そうすればこの愛しい人を永遠にこの腕の中に閉じ込めておける。
このぬくもりを独占したい。

ぎゅっと十代を抱きしめる。

まだ夜明けは遠い。
せめてこの眠りの間だけは。
十代を独占させてほしい。

ヨハンは目を閉じた。


*三千世界の鴉を殺し
  主と朝寝がしてみたい*


***

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ