君の世界が終わる夜

□2.ふねのなか
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ゆらゆらと、揺れる。波と同じように動く船は少し逆らい一つの明かりを頼りに前へと進む。
夜、海は青から黒へと変化する。

「船長…」

若い船員が、男に気まずそうに声をかけた。男も割りと若く見えるが、この船では年長のようだ。

「どうした?」

「お休み中すみません。実は、貨物室に猫がいまして…」

三回は瞬きが出来るくらいの時間、船長は若い船員を見つめ、やっと聞き間違えたかのように一言繰り返した。

「猫?」

黙って頷く船員に笑いかけた。

「この船は、三日も海の上だ。何度か貨物室に行ったが、誰も猫なんか見なかったぞ」

「いたんです、猫が。今は談話室に」

「逃げてきたのか」

「いえ、捕まえようとしたら自分から抱かれに来たんです。で、とりあえず休みの船員で見ています」

猫が、人間の腕に飛び込んでくるとは。

船長は若い船員と連れだって談話室へ向かった。
談話室と言っても広いものではない。丸く小さな机が一つと、粗末な椅子が散乱しているだけだ。
椅子の一つに、猫が乗っていた。我関せずと寝ていることはない。ちょこんと座り、回りを囲む船員たちを見つめる。誰かが話しかける度に、その者の方を向くのである。

「黒猫か」

船長は輪の中心になっている猫を見た。その声に、猫の金色の瞳が動いた。

「キャップか?」

さっと、風のように彼は椅子から船長の元へ降り立った。小さな頭をぐっと上げ、自分よりずっと高いところにある瞳を見る。

「船長、知り合いですか」

まるで人間のように黒猫との関係を尋ねる。

「あぁ…たぶん、おそらく…絶対に」

差し出した手に目を閉じて、愛しそうに頬擦りをする小さな体を見、推定が確信に変わる。

「大きくなったじゃないか」

「よく分かりますね。猫はみんな似ているのに」

「なんとなくな」
と、笑む。



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