穴城

□女侍
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渋い紅色の袴に、艶やかな柄の小紋を合わせた女が、穴城から出てきた。その身に佩(は)いた大小(だいしょう/大刀と小刀のこと)の柄糸(つかいと)や下げ緒にも、紅いものを用いている。
紅い紐で結った豊かな黒髪を揺らし、後ろを振り返った。

「ゆん、かえで。置いていくわよ」

「ごめん〜っ」

ゆんとかえでが駆けてくる。二人は、普段とさして変わらない着物である。

「もーっ、私の方が支度に時間がかかるはずよ。それが、二人して私よりも遅いのはどういうことかしら?」

「かえでが昼寝してて〜、起きなかったの!!」

「ちょっ、何言ってんの、ゆん」

かえでは焦って、二人を交互に見る。

「あら、そうなの?」

「え、えへ。許して小松姐さん」

しっかり見廻り出来たらね、と笑って小松は歩き出した。


「なぁ、女ばっかで見廻りって実は初めてなんじゃね?」

仰向けに寝ていた甚八が頭を反らし、門から出ていった三人組を逆さに瞳に映しながら言った。
今は愛刀を整備に出していて、暇でしょうがないのだ。

「私の知る限り、初めてですね」

「ま、小松がいるなら何の問題もないだろうけど」

六郎は甚八の無茶な姿勢に笑いながら、その視線の先を見た。

「他との仕事の具合で仕方なくだったんです。でも意外と良い組み合わせですよ。何となく、女性だけで見回りだと色々と物騒かと思っていましたが、昼間なら試す価値ありですね。
…ところで、その髪止め、刺さらないんですか?」

「あ、痛って!!」

そう言われた後、甚八の姿勢が崩れた。



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