穴城
□陽炎
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ほっとけば女は集まる。恋なんてガキの頃以来で、最近は特にどの女も愛しちゃいない。が、
「上玉」
甚八は気づかれないように呟いた。久しぶりに気に入った女に会った。容姿も、中身も。ただ、今のところは恋でも愛でもない状況に過ぎない。
「あの、甚八さん?」
「んぁ?あぁ、何」
「じっと見ていらっしゃるから…」
「ま、対象物の観察?」
と、笑う甚八。
目の前にいるのは春日姫。国主である親父殿の依頼で、三日間、厠と風呂以外常に一緒にいた。
姫の周辺で妙な影が何度も目撃されているから、ということだった。当然術師も一人、幸が一緒に来ている。が、何も感じないという。
「ふざけた甚八は放っておきましょう。何も感じないわけは無いはずなんですよね…実際、昨日一人、葬りましたから」
「え…」
姫は嫌そうな、不安そうな顔をした。
「言いませんでしたか?」
「聞いてねぇよ、俺も」
「ちょうど甚八が寝てた時だったんだ」
「その軽い言い方だと、大したことなかったみたいだな」
幸と甚八が世間話のように話していると、姫がおずおずと聞いてきた。
「それは、どのような方でしたか?」
「どんなって…城にはよくいる感じの、主人思いの侍女でした。まだ主が気がかりなようで」
それを聞いた姫はにっこりと微笑んで、ごくろうさまですと頭を下げた。ちらりと甚八と目配せをし、話を進める。
「まぁ、そんな幽霊さんがいたので、何も感じないはずはないんですよ。何も感じないこと自体が異常なんです」
微笑みを止めた姫を凝視しながら、甚八はぺろっと舌を出した。
「つーことは、やばい奴がいるってことか」
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