ひと味
□10分のさぼり
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「じゃ、この辺で出席採ろっかー」
授業の中盤辺り、だいたい雑談を始め、一息つき終わった頃に先生は出席を採り始める。空いている席と前の授業で他の先生が付けた出欠を照らし合わせる。
「ん?そこの席、誰?」
窓側の最後尾、一番人気のあるはしっこの席を指して先生は座席表を見る。
「葉山君?早退?」
教室がざわつく。さっきまでいたよな、休み時間は…なんて声が聞こえる。
「えー?っていうか、鞄あるよね…だれか、あ、学級委員さん、探してきてくれる?」
学級委員って、二人いるよね。私は女子の委員だけど、男子が行くはず、たぶん。ここではりきったら、葉山君が好きってバレるし、私の役目じゃないよね、と思っていたら名前を呼ばれた。
「西成さん、よろしく」
「って、男子の委員は葉山君でしょ!!」
つい、声に出してしまった。
笑い声に送られながら教室を出る。
あと10分雑談しとくわー、と予定より速めに授業ができているらしい先生はなんと、教科書を閉じた。
10分の間に探してってこと?前に初瀬君がさぼった時も10分だったかも。
屋上が定番だろうけど、うちの学校、鍵掛かってるもん。とりあえず保健室かな、実は体調悪いかもだし。
ここは三階。一階の保健室に行こうと、階段を降りている途中、ピアノが聞こえてきた。
さゆの好きな曲だ。
音楽で、鑑賞の授業かな?なんて思いながら何気なく音楽室の方を見た。
音楽室は上靴を廊下で脱いで、下駄箱に入れて入らなければいけない。その下駄箱、廊下にあってここから見えるのだが、上靴は一足だけ。
「ん?」
そっと、近づいてみる。ドアの窓から中を見ると、黒髪が見える。あの後ろ姿、恋する乙女の判断により、葉山大介だと確信した。
でも一応、確認するために上靴を見ると、名前が書いてある。
大助は、ピアノを弾いていた。
「うわ…CDじゃなかったんだ…」
って、そうじゃないでしょ!!と自分につっこみつつ、中に入る。
「さぼりみーっけ」
曲が止まる。こっちを向いた葉山君はまぁ、かっこいいのなんの。
好きになったらなんでもかっこよく見えるのかな…。
「ははっ、見つかった」
にやっと笑う。
「ほら、教室戻んなきゃ。そもそも、なんでさぼってるの?」
「んー…たぶん今日は授業進まないかなぁ、なんて…」
「こらこら。ちょっとは進むよ。葉山君のおかげで10分雑談が延びてるけどね」
「10分?」
「うん。10分たったら授業再開。それまでに探してってことみたい」
葉山君は予想通り、という顔で、何分に教室出た?と尋ねた。
「15分。すぐ見つけたでしょ」と、私は笑う。
「うん。じゃあ、25分までに戻ればいいのか」
「え、すぐ戻んなきゃ…」
言いかけたのを遮って、いたずらっぽくこっちを見る。
「僕がさぼった本当の理由知りたくない?」
それは、好きな人のことはなんでも知りたいですよ。本当のってとこも気になるし。
葉山君は手招きをした。素直に近づく私に、彼は耳打ちした。