短編

□†Kiss Me…†
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〜グレル〜


『…本当に行っちゃうの?』


アタシを見てくる悲しげな瞳に、揺らぎそうになる心を何とか持ちこたえさせて
「当たり前じゃない。」
と冷たく言い放った。


「アタシ死神よ?アナタ達人間みたいに暇じゃないの。」

『で、でも!この間、ずっと側にいるって、ずっと一緒にいるって…
言ってくれたじゃないっ!』

「っ…」


―…この間
気が付いたら抱きしめて発してしまった言葉。

抑えられずに発してしまったアタシの本音…―


彼女を見ると今にも泣きそうな瞳で…だけどとても強い眼差しでアタシを見ていた。

―…その瞳が大好きだったわ。


「あんなの、嘘よ。」

『え…?』


―…その声が大好きだったわ。


「死神のアタシに恋しちゃってるアナタがおかしくってね。からかったのよ。」

『…っ!』


―…アナタの全てが大好きだったわ。

大好きだからこそ死神なんかじゃなく人間と幸せになって…―


瞳から涙を零す彼女の顎を上に向かせ、そっと…出来るだけ優しく唇を彼女のそれに落とした。


「…アタシの事が大好きだったアナタに、アタシからのプレゼントよ。」


見下したような笑みを作って、アタシはそのまま彼女に背を向け歩きだした。

今の最低なキス
本当はアタシ自身の為にした事。

彼女のぬくもりを…大好きな彼女のぬくもりを、この唇に覚えていたくて。


後ろにいる彼女に悟られぬよう、指で自分の唇をなぞった。

これから彼女が、普通の幸せな生活を送れる事を願って…



『それでも私っ…グレルが好きっ…!!これからもずっと…大好きだからぁ…っ!!!』


泣き叫ぶ愛しい声に足を止めてしまう。

そして小さく微笑んで、アタシはもう一度歩きだす。

ひとつの決心を心に抱いて。




†最低キス†

仕事を早く終わらせて
会いにきましょう

その時には
最高のキスを



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