短編

ハッピーバースデー
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なんだかこの頃、血盟城にいる人たちの態度がおかしい。



メイドさんの姿を最近あまり見かけない。
(忙しいからかもしれないけど)

ギュンターが近づかなくなった。
(嬉しいことだけど)

グウェンダルはいつも以上に素っ気ないし。
(あまり気にしてなかったけど…)

ヴォルフは一緒に寝なくなったし。
(1人で寝れるようになって嬉しいけど)

グレタは城に帰ってきてたのに会いに来てくれない…。
(おれが会いに行けばいいんだけど忙しくて……)





………おれ、何かしたっけな?









*** Happy Birthday ***




先月、地球からこっちに来たときは梅雨に入っていたのか雨が毎日降っていた。

最近は晴れの日が多い気がする。
梅雨でも開けたのかなぁ〜なんてまだ眠い頭で考えながらジャージに着替える。


「ま、雨よりは晴れの方がいいしな!」


ようするに、ロードワーク日和〜ってやつだ。

独り言を言いながら着々と着替えを済ませ、廊下に出る。
廊下には警備の兵士さん達以外は姿がない。

コンラッドの姿もない。


だって今日はいつもより1時間も早く目が覚めたから。
コンラッドがおれを起こしに来ているはずがない。


「よぉ〜し、コンラッドを起こしに行くか!!」


警備で立っている兵士さん達に挨拶をしながらコンラッドの部屋を目指して歩き始める。

あんまりコンラッドの部屋にいったことがないから、ちゃんとたどり着けるかが問題だ。


 

曖昧な記憶を辿りながらコンラッドの部屋を目指して歩いていたおれは、ふと足を止めた。


「…………応接間から声がする?」


ドアの向こう側からたくさんの人の声が聞こえる。
何かを一緒に喋っている感じ……というより、何かを歌っている?


「へぇ〜…眞魔国にも日本みたいに何かこう、ラジオ体操みたいに朝にする決まり事とかあるんだな。
 朝からこんな所に来たこと無かったから知らなかったや」


せっかくみんなで集まってやっているんだから邪魔をしないでおこう。

そのまま部屋のドアを通り過ぎてコンラッドの部屋を目指した。







結局、途中で道が分からなくなって兵士さんに聞いてやっとで部屋の前まで来ることができた。


早めに部屋を出てきて良かった。

自分の部屋を出て30分以上城の中を彷徨ってた気がする。
……自分の城の中なのにコレでいいのか?




―コンコンッ


控えめにドアをノックして返事が返ってくるのを待つ。


「……………」


返事が返ってこない。
試しにもう1度ドアをノックしてみる。


―コンコンコンッ


さっきよりちょっと大きめにノックをしてみる。


「………………」

「コンラッド〜起きてる?
 …………コンラッド、部屋に入るよ?
 し、失礼します」


一応、部屋にいるだろう人物に声をかけてドアを開ける。
鍵はかかってなかった。





 

―ガチャッ


「…………ぁれ?」


ドアを開けて中を覗くと部屋の主の姿が見えない。
……もしかして、迷ってる内にどこかで行き違ったかな?

おれは慌てて部屋から出ると自分の部屋を目指して駆け出す。


………………お約束通り道にしっかり迷って。







さすがにどう道を来たか覚えてなくて、兵士さんに聞こうかな〜なんて思い始めた頃―…。


「陛下っ!!
 こんなところにいたんですか、部屋に行っても誰も居ないしビックリしましたょ」


廊下の向かい側からコンラッドがおれに気づいて走ってくる。
結構探し回ったのか、額には彼らしくなく汗がうっすらと滲んでいた。


「コンラッドを起こしに行こうかと思ったんだけど、道に迷うわ部屋に着けばコンラッドがいなし。
 おまけに帰る途中に迷子………」

「そうだったんですか、どこかで行き違ったみたいですね」

「走ったり歩いたりでロードワークと同じくらい疲れたや…」


ふぅ、とため息をついてその場に座り込むとコンラッドが吹き出した。


「なっ!?笑うこと無いだろ〜!!!!
 コンラッドの部屋の場所が分からなくて散々迷ったあげく兵士さん達に道を聞いたりで大変だったんだぞ??
 ……っていうか、さっき陛下って呼んだだろ…」


怒りながらコンラッドに言うと彼は笑いを堪えながら


「……すいません、ユーリ。つい、いつもの癖で。
 俺も早く目が覚めたのでユーリを起こしに行こうと思って、早めに部屋をでたんですよ
 まさかユーリが起こしにきてくれるなんて考えてなかったので」


遅くまで寝てればユーリに起こしてもらえたのに、
と本気で悔しがるコンラッドが面白くて今度はおれが吹き出した。


「コンラッドは子供じゃないんだから早起きできるだろ〜?
 なんたってコンラッドは地球じゃお年寄り〜…よりも上に分類されるんだしさ!!」

「ぉ、お年寄りって……」

「冗談冗談っ!!
 それよりさ、ロードワークする前に疲れちゃったし今日は止めておこっか」

「(冗談に聞こえなかったんですけどね……。)
 そうですね、着替えて朝食を食べに行きましょうか」


  

コンラッドが部屋まで送ると言って聞かないので、しかたなく止めるのを諦める。

………部屋に帰るまでまた迷うでしょう?、なんて言われたら返す言葉が無いし。





部屋に帰る途中、応接間の前を通った。

ココまで道順はあってたんだなぁ〜、なんて思いつつ今日の朝の事を思い出してコンラッドに聞いてみる。


「なぁ、コンラッド〜。
 やっぱこっちの世界でも毎朝みんなで集まって何かすんの?」


何気ない質問だったのに、コンラッドの表情が一瞬だけ強ばった気がした。
だけどそれも一瞬で、いつもの笑顔で質問に答えてくれる。


「えぇ。コチラの世界では眞王に捧げる歌をちょうど向こう……
 眞王廟の方に向かって歌う決まりになってるんです」

「そうだったんだ。
 てっきりおれは何かの宗教とかそういう類かと思ってドアを開けなかったんだよね。
 よぉ〜し、明日からおれも一緒に参加しよっと!!」

「それはいけません!!」

「えっ!?………コンラッド?」


突然、慌てたようにおれを止めるコンラッドに何か違和感を感じて名前を呼んでみる。


「ぁ、ぃえ……失礼……。さ、部屋に着きましたょ。
 朝食の時間になったら呼びに来ますのでそれまでに準備を済ませておいてくださいね?」


コンラッドは歯切れ悪く答えると、そのまま元来た道を戻っていった。







………コンラッドまで何か変だな。


頭でそんなことを考えながら風呂に入る。

だからかな?
足下に落ちていた石けんを踏んで勢いよく頭から風呂に落っこちた。


―ドボォォォン


結構な音を響かせて風呂の底に開いてる穴に吸い込まれる。



あぁ、床で頭を打たなくて良かった〜……

なぜか冷静にそんなことを考えながらおれは闇の中に吸い込まれていった。



  

―ザバァッ!!!

勢いよく水しぶきを上げて家の風呂から出る。



そーいえば、こっちでも風呂に入ってる途中で流されたんだっけ?

そんなことを思い出しつつ風呂を出て着替えていると、


「ゆーちゃん?
 もうご飯の準備ができてるから早く出てらっしゃいvv」


ドアの向こう側からお袋の声が聞こえる。


「あぁ、着替えたらすぐ行くよ〜」


着替えてリビングに入るとすでに席に着きスプーンをてにした親父と勝利が待っていた。

……今日の夜ご飯はカレーらしい。


「いっただっきま〜す!!」


みんなで合唱をしてご飯を食べ始める。

……あっちで朝食を食べてなくて良かった〜、なんて考えてたら


「ぁ、そういえばゆーちゃんがお風呂に入ってる間に健ちゃんから電話があったわょ?
 健ちゃんも呼んで一緒に食べれば良かったわね〜vv」

ぉ袋が思い出したように言ってきた。

「ふ〜ん、何の用だったんだろ?」



……つーか、一緒に食べれば良かったわね〜って……。
村田にも家族がいるんだから家に呼んじゃダメだろ!!


内心1人ツッコミをしつつ電話をしようと席を立つ。


「ぁら、ゆーちゃんもう食べないの?」

「ぁ、ちょっと食欲無くってさ……大丈夫、ただの夏バテだょ。
 ご馳走様でした〜!!」


皿を片付けて廊下にある電話を手に取り自分の部屋に入る。

夜とはいえ今は夏の真っ最中、部屋の中はむ〜んとして暑苦しい。
コールをしながら扇風機を付けてその前に座り込む。



  

「もっしも〜し!!渋谷さんのお宅ですか〜?」


数回のコール音の後、受話器を取る音と無駄に元気な村田の声が聞こえてきた。


「渋谷さんのお宅ですょ〜、じゃなくてっ!!!
 ……電話をかけたのおれだょな?」


こっちから電話をかけたのに、何故か向こうから電話してきたような答えが返ってきた。


「ま、それはいいとしてさ〜。
 なんで渋谷がコッチにいるのさ?」

「いや、なんでって言われても……流されて帰ってきたんだし」

「ふ〜ん、そっか。流されたんじゃ仕方がないよね!!
 ぁ、そうそう!!今からちょっと公園で花火しない?
 家に買ってきてあるんだけど一緒にする人がいなくってさ〜」

「…花火?ぁ〜やるやる!!」

「ォッケー。じゃぁ今すぐいつもの公園に来てね〜vv
 ボクより遅かったら花火代は渋谷持ちね〜!!!」

「って、今す……」




―ブツッ。




村田は一方的に言うだけ言って電話を切った。



……何をそんなに慌ててるんだろ?
疑問に思いつつさっき村田が言ってたことを思い出した。


(ボクより遅かったら花火代は渋谷持ちね〜!!!)


「……ヤベッ!!!!
 早く公園に行かないと村田が先に来ちゃうしっ!!!」


慌てて1Fに下りて玄関を飛び出す。


「ゆーちゃん?
 どこかに行くならママにちゃんと言っ………」


お袋が何か言ってたけどよく聞こえなかった。


  

「……ったく。
 急に呼び出しておいて来るのが遅いなんて何やってんだよ、村田のやつ〜……」




公園に息を切らして到着して待つこと15分―。

村田が花火を詰めたバケツを持って公園に入ってきた。


「おっせーよ、村田〜……ってかそのバケツと花火、2人でするにはちょっと大きすぎね?」

「わぉっ!!渋谷来るの早いね〜…。
 ボクなんて急いで電話を切って家をでたのにさ、
 外国人らしき人と犬に道を聞かれちゃってさ〜携帯ショップまで道案内をしてきたんだよね」

「……おれの質問は無視かよ〜っていうか、
 さっすが村田だな〜外国語も喋れる………って犬にまでっ!?」

「まぁ、ボクは英語から動物語まで何でも話せるからね!!
 それになんかあの2人、家族っぽかったし。
 それより渋谷、花火っ!!早くやろ〜ょ!!」


……ツッコミどころ満載でどこから突っ込めばいいかよく分かんない。


「ほら、渋谷はこのバケツにそこの噴水の水を汲んできて!!」

「……オッケー」


渡されたバケツを持って近くにある噴水の中に沈める。
水が入っていってどんどんバケツは重くなって下にしたにしたに………。


「ぁ、あれ?バケツが重くて上がんねーし!!!
 村田、ちょっと手を貸し…………って村田??」

「たぶんそろそろ行けばちょうどいい時間帯だよ、渋谷」


なぜか厳重に袋に入れられた花火を持った村田がおれの体を押すと共に自分も一緒に噴水の中に入ってきた。







さっき帰ってきたのにまたスタツアかよ〜……。


おれの呟きは泡として水の中で消えていった。
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