またたび
□Please Smale
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春。
新しい出会いや景色に心躍る季節。
しかし、このお話の主人公、大野陽一その人は眉間に皺を寄せて憂鬱そうな顔をしておりました。
憂鬱、というよりもこの世の終わりを告げられたようなまさに…
「うっせーぞナレーションっ!!」
「誰に言ってるの、陽一?」
「や、何でもねー…」
はぁ、とため息をつきながら俺は隣を歩く親友、垣内翔に何でもない、と手を振った。
空は快晴、陽気な日射しと爽やかな風…。
文句の言いようもないこんな日に、もともと仏頂面の俺が更に憂鬱な顔をしている原因はと言うと…
「せんぱーいっ!太陽せんぱーいっ!!」
この女だ。
「おはようございます、太陽先輩っ!垣内先輩!」
「おはよう、春地さん」
「何度も何度も言うけど、俺は太陽って名前じゃねぇ!」
「大野の大に陽一の陽で太陽先輩なんですーっ」
「それじゃ『だいよう』じゃねぇかっ!」
「大は『たい』とも読めますし、字も似てますし!それに何より先輩は私の太陽ですからっ!」
「それも何度も聞いた…」
ピシッと人差し指を立てて満面の笑みを浮かべる様子に俺は怒る気も失せて肩を落とした。
俺を困らせるこの女は、春地倭子。
今年、俺と翔の通う高校に入学してきた1つ下の少女だ。
146cmの小柄で華奢な容姿とは裏腹に、かなり強引なヤツだ。
『先輩好きです、笑って下さい!!』
ファーストコンタクトで急に告白してきたと思ったら笑って下さいと意味不明な事を言ってきて以来、毎日俺につきまとってくるのだ。
俺とは前に会った事があると本人は言っているが、俺は全く記憶にない。
けれどもこの迷惑娘は語ろうとしないのだ。
全く…一体何がしたいんだか…。
フラれてもこれだけめげずにぶち当たって来るというのも少々…いや、かなり理解し難い。
「せーんぱいっ、今日こそは笑って下さいね♪」
「お前なぁ、そんな事言われて簡単に笑える訳ねーだろ」
「そんなぁ〜」
「僕は出来るよ?ほら、にっこー」
「愛想笑いじゃダメなんですぅ」
「だったら余計に無理だっつーの!」
「先輩のケチぃ〜」
「言ってろ」
ぷくーっと頬を膨らませながら恨み言を呟く春地だが、文句を言いたいのはこっちである。
訳の分からない事を言われて、迷惑しているのはこっちなのだから。
とまぁ、今はこんな事を言っているが、それはまだ俺がガキで、何も知らずにいたからだったんだ…。