またたび
□ちょこ×ちょこ
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突然ですが、私、柊 千代子っていいます。
皆さんももちろん、今日が何の日かご存知ですよね?
そう、今日はバレンタインデー。
西洋のイベントを模した製菓業界の大売出し日な訳です。
かく言う私も踊らされている訳ですが、恋する乙女には自分から踊り出たいぐらいの日なのです。
「南くん、受け取ってくれるかな…」
そう。先に恋する乙女と言いましたが、私にはトキメキが抑えきれない恋の相手がいるのです!
私と同じ高校に通う加納 南くん。
華道の家元、加納家のご子息で学校一の美青年です。
クールで近寄りがたいと思われがちですが、本当はとても優しくて…。
図書委員で一緒になり、共に作業している内に私は南くんに恋をしてしまいました。
叶わぬ恋だと思い、諦めようと思った事もありましたが、告げないまま枯れていくならと告白したのが去年の秋。
銀杏並木の匂いが気になる中の告白を、快くOKして下さった南くんはまるで神様のようでした。
それからもクリスマス、お正月と恋人と過ごすにはもってこいのイベントはあったのですが…。
クリスマスデートを提案した時には『俺、仏教だし』と言われ、初詣に誘った時には『親戚との会食があるから』と断られてしまいました…。
でも、今日のバレンタインには予定を開けてくれたのです!
南くん、私…愛されてるんですよね…!!
「あっ…」
南くん!
待ち合わせのまだ15分前なのにもう待ってくれています…!
「南く…、南くーんっ」
パタパタと駆け寄って行くと、南くんがこちらを向く。
はぁ…今日もカッコいいです〜…。
こんな方と私が恋人だなんて、本当に良いのでしょうか。
「…おはよう」
「おはようございますっ!あと、ハッピー・バレンタインです!!」
言いながら、用意したチョコを手渡すと少しはにかみながら受け取ってくれる。
「お花が練り込まれたチョコを探してみたんです!お口に合ったらいいんですけど…」
「へぇ…」
包みを開ける南くんを緊張した面持ちで見つめる。
それを受けた南くんは、少し気まずそうに桜型のチョコを口に運んだ。