#5
□PAIN
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#1
(…………ん、雨か?)
突然、意識に入り込む、雨音が、浅い、昼の眠りから、覚醒させる。
久々に干した洗濯物が既に手遅れになってしまっていた事に、慣れない事するもんじゃないなと軽い憂鬱を覚えたけど、
通り雨だし、そのまま干しておけば大丈夫だろうと、対して気にせず、窓に濡らす雨粒をぼんやり眺めていると、来訪者を知らせる呼び鈴が鳴る。
……ったく、こんな時に誰だよ、セールスマンか?雨なのに大変だよなと軽く舌打ちして、居留守を使っておけばさっさと帰るだろうと放っておく。
すると、再び鳴る呼び鈴の後に、遠慮がちに俺を呼ぶ声が小さく聞こえて、いや、小さくても、その声には、とても、
―――とても、聞き覚えがある、その声の主を自覚すると、すぐさま、玄関に向かい扉を開く。
扉の向こうに居た彼女は、通り雨で、傘を持ってなかったのか、びしょ濡れで、俯いていた。
どうしたんだよと声をかけても、俯いて、こちらを向こうともせず、ただ黙っているだけで
―――苛立ちを、覚えかけたけれど、
瞳は、彼女の肩の震えを、見逃さず、腕を掴んで半ば強引に彼女を招き入れた。
招き入れると同時、もう片方の腕も掴み、彼女の目を、じっと見つめて、
「………どうした?こんなにびしょ濡れになって―――何か、あったのか?」
答えを、聞くまでは、彼女の真意を、知るまでは、決して、逸らさずに、目線は、彼女を、捉えたまま――――
雨の冷たさの所為で、青くなった、彼女の口唇が、やっと、開いたけど、
黒い瞳は、俺に向けられてるはずなのに、何も、写さず、焦点も、まるで、合ってなくて―――
こうなってしまっている理由を、問おうとしたけど、彼女が、呟く、たった一言で、全てを、理解してしまったんだ
「………お父さん、お父さんが―――
………亡くなったん、 です」
この場を支配する、音は、窓を濡らす、雨音だけになって、
―――今見せる、彼女の感情の、理由、そのコトバを発した、瞬間、
コトバは、無情にも、受け入れたくない現実を突きつけ、彼女の瞳は、みるみるうちに潤み零れ出す、水滴。
「―――――もう、いないんです、よぉ!!!」
静けさが、プツリと切れる様、泣き叫ぶ彼女が、いたたまれなくなって、
――――吐き出す、叫びを、感情を、全て受け止めたくて、塞いだキスは、
こんな時に、限って、何の言葉もかけられない自分が、唯一、出来る事だった。
――――ただそれだけでも、出来れば、途轍もない痛みが、少しでも楽になれるんじゃないかって、
………こうするしかないんだって。
「もう、何も、言うな―――」
何も、言わなくても、大切なモノを失った、痛みは、誰よりもよく、分かるから――――