双花焔恋(少陰長編)
□連
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興奮で震えていた主の体が一瞬で鎮まったことに、下僕達は呼吸を止める。
冴え冴えとした水晶の瞳が、ひび割れた宝石特有の危うい美しさを放つ。
「行け。――――今私の中に戻るよりは、灼かれたほうが長く生きられるだろう」
その言葉が最後の慈悲だった。下僕共は一斉に姿を消し、奇妙な空間に燐とその主だけが残される。
それまで虫の息だった燐が、不意に小さな笑い声を漏らした。
「彼ら、は、私と違って、死を、恐れます。そう、作ったのは……」
「ああ、私だな」
燐を踏みつけていた足をどかし、主はその傍らに膝をついた。ほとんど残っていない濃紺の髪をわし掴み、そのくすんでしまった金色の瞳を覗き込む。
危うげな主の瞳が、柔らか過ぎるいとしさを宿す。
「なあ、死を恐れる生き物は哀れだと、そう思わないか」
低く笑う。主の瞳は、ここにいない神を見ていた。
「そしてあ奴は、酷く優しい。――ああ、本当に、なんと愛おしい者か」
ただれた燐の頬を、主はべろりと舌でなぶった。
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