双花焔恋(少陰長編)
□燃
1ページ/13ページ
邸の結界の外で、何匹かの妖と神将が戦う気配がする。
晴明は重い表情で、目の前に横たわる紅蓮を見つめている。
自室に昌浩を呼んですぐに妖からの襲撃があり、紅蓮が苦しみはじめたらしい。
晴明はすぐに六合に紅蓮を運ばせた。部屋の周りに幾重にも結界を張り、紅蓮の神気を洩らすまいと神経を尖らせる。
しばらく苦しみ抜いた末、紅蓮は浅い呼吸を繰り返しぐったりとしている。眠っているのを先ほど確認した。
「紅蓮……」
痛ましげに顔を歪め、昌浩が紅蓮の額に張りついた髪をどかしていた。
その視線が晴明に向き、物言いたげに歪む。
晴明は胸につっかえる重石をなんとか飲み下し、眠る紅蓮を見下ろす。
「人も神も変わらぬものじゃ。突然引き合って、運命のように恋をすることがある。――あの神と紅蓮がそうだったのかは、わしにはわからんが」
「……神?」
聞き返す末孫に、晴明は深く頷いた。
あの時、彼らがお互いになにを思ったのかはわからない。
晴明が見たそれは、ただの恋ではないように思えた。
何故なら、
「神殺しの神。――以前高於加美神からお借りしたあの炎の持ち主が、再び黄泉から帰ってきたのじゃ」
彼らはあの時、ただ寒がる子供に見えたから。
・