双花焔恋(少陰長編)
□桜
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咲いているのが嫌なら、散る美しさを愛でよう。
〈桜〉
耳元でうっそうと囁いてくるのは、なによりも焦がれた声だ。
「なぁ、騰蛇。地上の腰抜け神達は、お前に私を殺して欲しいそうだ」
安倍邸を包む赤い光が、いつか見た花吹雪に見えた。
あの日も、赤い花弁が舞っていた。
「酷だと思わないか。こんなにも焦がれたというのに、また私達は引き離されるらしい」
紅蓮の思考は定まらない。ただ、またあの理解不能の苦しみが胸を襲った。
目の前には、神気で圧迫され地に伏せる勾陳と六合がいる。それが危険なことだと理解しているのに、今はそれより燐が捕まえている妖が気になる。
肩口で、愛しい声がまた囁いた。
「殺すんだ、騰蛇。あれは−−弱い私だ」
紅蓮は言われるがまま、ゆらりと妖に向かって左腕を伸ばす。指を絡められた右手が、痺れるように熱かった。
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