頂き物安置場

□野良ユキ様からのSS
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いつの間にか、こんな日常は熱苦しく・騒がしいものへと変わった。



「政宗殿おおおおおおおおうううううっ!!!!」

ドタドタドタ。 廊下を駆けてくる足音、それに政宗が顔を上げ Shit,と舌を打つ。
と同時に呼び声が… というよりは叫び声が響き、眉間へ深く皺を刻む。
それは、嫌だったから、という訳ではない。ただ「馬鹿なヤツ、」と呆れたのだ。

(んなデケェ声出したら小十郎にバレんだろ)

そう思うが早いか。真田ァアッ!!…と、地獄の鬼さえも逃げ出すような怒声が聞こえてきた。
ドスを含んだ腹心のその声は、主君には決して向けられることはない、あの状態のもの。
次いで説教が始まり・抗議の声が上がり・それに小言の嵐が応えるように始まって後は延々と…。
その一部始終を風の向こうに聞き流しながら、政宗は 御愁傷様、とばかりに口元を緩めた。

「―――兎に角、政宗様は今朝から政務でお忙しい。諦めて、さっさと帰るんだな」
「否!某とて武士でござる、何も成さず帰ることなど出来申さんっ!!」
「何ィ?てめぇ… !? っおい、待ちやがれ!!」

再び名を叫ぶ声が移動する。正確に言えば、更に近くなった。
政宗はまた顔を俯かせ、ヤレヤレと短く息を吐き出す。

そんなにオレを見つけたいのか。

呆れる反面、血が騒ぐ様な高揚感を覚える己の状態を自嘲して。
クツクツと無意識に笑いを漏らせば、スパンッ、と障子を開ける物音が重なった。
それでハッと我に返り、慌てて片手でニヤけた口を抑え政宗は声を殺す。
瞬間、騒々しさが一瞬で消え失せ、静寂の中、微かに身を震わせつつ耳を澄ませる、と。



「――― っ政宗様ああああああああああ!!!!」



大きなそれに、堪えきれず吹き出した。






政宗は、その身を縁側の下へと潜ませていた。






「ったく…! あの人は、目を離せばすぐ之だ…!!」
「おお、やはり居ませぬか、そうであろうと思い探しておりました」
「ぁあ?…まさかテメェ…」
「然様な予感がしておっただけでござる」

獣並のカンだな。小十郎の声が呆れた様に言って 一先ず、と言葉が続く。
俺は政宗様を探すからテメェは大人しくしてろ、…というような事を。

漸く笑いが止まった政宗は聞き取ると、息を詰めて気配を消せるだけ消した。
屋敷の下である此処は狭くて暗くて蜘蛛の巣だらけで、お世辞にも綺麗とは言えない、
そんな場所をわざわざ選んだ以上こんなに早く見つかってしまいたくはない。

地に伏せた状態のまま辺りの気配を探り、目を細める。

ズンズンと大股で歩いているのだろう、素早く頭上を通り過ぎていった、それに。
殺気に酷似した何かを感じ、内心ヒヤリとしながらも政宗は微動だにしない。
ただ静かに、ゆっくりと詰めていた息を音もなく肺から吐き出して。
立ち去っていった小十郎の気配が無くなってから は、と埃っぽい空気を吸い込めば。

「政宗殿。」

口から手を外した、その時だった。ひそひそとした声が呼びかけてきた。




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