その他Novel

□変わらないものと変わるもの
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「月が綺麗ですね。」

幸村がベランダで涼みながら隣りにいる政宗を見つめながら言った。

その言葉を知った時から一度で良いから彼に言ってみようと、少しだけ子供のように期待しながら幸村は考えていた。
昔はそんな洒落た言葉はなかった。
学と風流のある彼と同席しても、そんな言葉は存在しなかった。
しかし今の世ならきっと大丈夫だろう。
自分達の後に生まれた新しい言葉を作った偉人に感謝する。
情けを新しい言葉で分類してくれたのだから。

今の世に生まれ落ち、幸村は政宗を探しながら人並みの人生を歩んできた。
ちゃんと学業も大学まで行き修め、勿論武芸(今の世ではスポーツというらしい)もきっちり功績も修めるぐらいした。
部屋にさり気なく飾られているトロフィーの数がものを語っている。
幸村にとって昔の自分の要領でやれば、武芸は全く苦ではないのだ。
むしろ周りより出来過ぎて、物足りないぐらいだった。
だからそのまま武芸の選手になれば良かったのだろうが、彼とまた出会う為、子供の情報の入りやすい教師という職についた。
勿論武芸の教師をしている。
武芸がこの時代でも達者で良かったと幸村はしみじみ思った。
そして気持ちを新たに赴任先の男子校に行ってみると、幸村は初日早々ひっくり返りかけた。
なんと、自分と同じように昔と同じ姿で昔の記憶を持つ政宗と出会ったのである!
壇上の新職員紹介の時、視線が合って二人共一瞬固まったのは良い思い出であった。
沢山いる学生の中から政宗を直ぐに見つけられた自分に拍手を送りたい。
政宗も彼らしくなく隻眼が大きく見開かれ、いつも冷静な表情が驚愕に満ちていた。
因みに幸村にいたっては驚きのあまり壇上で皆の注目の中マイクを落とすという失態をおかしたので、まだたまに政宗にからかわれたりする。
勿論昔と変わらない彼らしい口癖付きで。
しかしそういう変わらない政宗が、幸村にとっては物凄く愛おしかったりするのだが。

そして幸村は出会って早々に昔と同じように政宗にアプローチをしかけた。
昔と違い今は特に身分や背負うものの障害は何もない。
そう思って必死に毎日毎日、さり気なくアプローチをかけた。
廊下ですれ違ったら挨拶したり、体育の時も贔屓にならない程度に接したりした。
そうしていたら今度は政宗の方から放課後は接してきた。
幸村はそういう面で意地っ張りな政宗が自分から近付いてきたので驚いたが、元々叶わなかったとはいえ、心は通じ合っていたのだ。
政宗もまだ幸村の事を愛していたのである。




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