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□ただ只管に、貴方を想う
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「貴様が封じられてからずっと待っておる。
なのに、貴様はまだ戻らぬのじゃな………。」


一匹の緑の竜が、その綺麗な一つきりの眼から静かに雫を零した。
零した雫は地面に落ち、その地に眠る草木を目覚めさせる。
目覚めた草木は見る見る内に花を咲かせた。
その様は見る者全てが感嘆する様な美しく幻想的な様子であったが、緑の竜はその様子を素直に喜べなかった。
あんなにも他者を慈しみ救い続けたと他人に言われてきたが、今では一人の男が再び現れるのを待つような、そんな気持ちに囚われている心になってしまっている。

これでは、先代に顔向け出来ぬ。

小さく緑の竜が溜息と共に呟いた。








それは緑の竜の政宗が、まだ今より幼かった時だ。
杖もまだ今のように花を咲かせておらず、大樹の精から若枝の名を授かり、様々な魔法を取得していた頃である。
取得と言っても、魔法に近い存在の政宗は見ただけで魔法を取得していただけだったが。
因みに政宗は魔法の連弾が好きだった。
要するに所謂銃と呼ばれるものに近い攻撃だ。
傷付けるのはあまり好きではないが、鮮やかな火花が連続して飛んでいくのは綺麗だと政宗は思っている。
だから政宗はそれを酷く気に入っていた。

そうして毎日修行を重ねていると、ある日一人の男が、このズーと呼ばれる国家にやってきた。
名は幸村。
そして彼はそのまま政宗と会う事になった。
守護竜が魔法に関して政宗に彼を見せたかったらしく、政宗のいる場所まで呼んだからである。
魔法の力や草木達の声で分かったが、幸村はドラゴン・エンパイアという国家から来たらしい。
守護竜の発言より先に政宗はそう感じ取った。
現れた幸村はヒューマンの様な見た目をして、穏やかな表情をしていた。
しかし彼の瞳には、底知れぬ何かがあった。
取り敢えず政宗もヒューマンのような形、所謂ドリアードやバイオロイドと呼ばれる者達の形で彼の前に出た。
正直興味があったのだ。
他国から来た存在に。
政宗はあまり他国は好きではなかった。
争いやら軍事やらで騒ぎ立て、引っ掻き回されるのははっきり言って嫌いだったからである。
なのにも関わらず、政宗は何故か幸村の前に出ていた。
自分でも不思議でならない。


「こんにちは。
初めまして、政宗殿。
私は幸村と申します。」


礼儀正しい男だった。
優しい眼と、優しい声、そして紳士的な優しい態度。
他人を平気で傷付ける他国の者だとは、政宗には信じられなかった。
更に握手を求めてきたのだから尚更だ。

なるほど。
守護竜が自分を呼び出したわけが分かった。

要するに、視野を拡げる為だ。
魔法の素晴らしさを感じる為だけではなく、他人を慮る気持ちを持て、そういう事なのだろう。


「幸村か。
覚えておいてやろう。」


政宗も笑顔を作って握手に応じた。




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