その他Novel

□ギャルソンの笑顔
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「ありがとうございました。」


政宗は笑顔で客を見送った。
この午前中の時間はまだ客はそこまでこない時間だ。
疲れ過ぎると幸村が凄く心配するので、政宗は店長に頼んでシフトをこの時間にしてもらったのだ。
ここの店はこの界隈では有名な喫茶店だ。
コーヒーや料理の味も良く、店員の人柄も良いと評判の店である。
だから給与や待遇も良く、それに比例して競争率も高かったが、政宗の元来のカリスマ性と持ち前の料理の腕のおかけでこうしてバイトとして入る事が出来た。
(実は政宗のその片目だが綺麗な見目も集客の一手になると受かった要因でもあったが、それを本人は知らない。)
因みに料理の腕は店長をも唸らせる腕だったので、創作料理の時は手伝うように頼まれたりもしている。
なので充実した仕事だと政宗は思っていた。


「………しかし、笑顔は疲れる。」


元々日常で笑顔を見せる事が少ない方の政宗にとって、笑顔を貼り付けるのは実は結構大変だった。
あの恋人で同棲もしている幸村にはある程度笑顔を見せられるが、満面の笑みは数える程しか見せた事はない。
それなのに接客は笑顔が必要なのだ。
きっとこの笑顔は引きつっているだろう。
政宗はそう思っている。
鏡の前で何度も何度も笑顔の練習したが、中々に綺麗に笑えない。
昔から(不本意だが)怒り顔や不敵な笑みばかり浮かべていて、社交辞令の笑顔が苦手な器用でない自分に嫌気がさしてくる。
やはり作り笑いが苦手なのはトップであった為だろう。
実際作り笑いが必要な相手には出来るだけ会わないようにもしていたのもある。
毎回満面の笑みで綺麗に笑えれば、もっと幸村に好かれる。
そう分かってはいるのに。
政宗は溜め息をついた。
しかしまだバイトの時間である。
浮かない顔は出来ない。
なので政宗は両手で自分の頬を軽く叩いて気合を入れる。
すると叩き終わった瞬間に店の扉が開いた。
からんからんと良い音がして扉は開かれていく。
なので政宗がいらっしゃいませと言おうと口を開いた、が、その口は声を発する事はなかった。


「………お邪魔します。」


そう言いながら、客は少し緊張しながら入ってきた。
店にお邪魔しますと言いながら入る者など、基本的にいない。
しかしそんな事は問題ではなかった。
政宗は顔を青くしながらその客を凝視する。
店長が心配してこちらを見ているが、政宗は気付かない。
それから数秒固まっていたがはたと我に返った政宗のその青い顔はみるみるうちに赤くなり、政宗はわなわなと震えだす。
そして、


「何故貴様がここにおるのじゃ馬鹿め!!」


政宗の怒声が、静かな店内に思い切り響いた。





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