捧げ物Novel
□雫 〜ラメント〜
6ページ/13ページ
ギィ……ギィ………
彼が漕ぐ小舟で湖を回る。
殆ど日は落ちて、うっすらと紫色に光を映していた。
湖の水もすっかり澄んでいて、一枚の絵画のようだった。
「山紫水明だ………。」
彼が珍しく、何時もは使わない言葉を言った。
その顔がやけに真面目だったから、僕は何故かおかしくなって笑った。
「わ、笑う事ねーだろ!!俺だってそれぐらい知ってるっつの!!」
「くすくす。ゴメンね?」
僕が笑ったから、彼はちょっと気を悪くしたみたいだった。
でも本当におかしかったんだ。
何時もの彼じゃなくて、もっと大人な彼がいたから。
「………もう。戻れないんだよな。」
彼が唐突に、ぽつりと呟いた。
………そう。
もう戻れない。
皆で笑いあった日々には、もう………。
僕は剥落した景色を見て痛感した。
静寂の中、僕の瞳から涙が溢れた。
ぽろり…ぽろり………。
いわくこれは、紅涙だと思う。
頭の片隅で冷静な僕が言った。
それは心の底からの涙だったから。
「ったく。泣くなよ。泣き虫屋だなぁ。強がってるくせに………。」
そう言いながら、彼は僕を優しく慰めてくれた。
.