捧げ物Novel

□雫 〜ラメント〜
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ギィ……ギィ………


彼が漕ぐ小舟で湖を回る。
殆ど日は落ちて、うっすらと紫色に光を映していた。
湖の水もすっかり澄んでいて、一枚の絵画のようだった。

「山紫水明だ………。」

彼が珍しく、何時もは使わない言葉を言った。
その顔がやけに真面目だったから、僕は何故かおかしくなって笑った。

「わ、笑う事ねーだろ!!俺だってそれぐらい知ってるっつの!!」

「くすくす。ゴメンね?」

僕が笑ったから、彼はちょっと気を悪くしたみたいだった。
でも本当におかしかったんだ。
何時もの彼じゃなくて、もっと大人な彼がいたから。


「………もう。戻れないんだよな。」

彼が唐突に、ぽつりと呟いた。

………そう。
もう戻れない。
皆で笑いあった日々には、もう………。

僕は剥落した景色を見て痛感した。

静寂の中、僕の瞳から涙が溢れた。


ぽろり…ぽろり………。


いわくこれは、紅涙だと思う。
頭の片隅で冷静な僕が言った。
それは心の底からの涙だったから。

「ったく。泣くなよ。泣き虫屋だなぁ。強がってるくせに………。」

そう言いながら、彼は僕を優しく慰めてくれた。



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