抱きしめたくなる10のお題

□素直 (完結)
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2、素直


桜舞い散るあの国で、甘い甘いお菓子を作った。


『猫の目喫茶店』自体がまるで菓子のような。

そんな錯角を起こさせるぐらいに。

目を閉じれば、今おこっていることのように
鮮明に記憶に残っている。



―そうだ、その次は…。


銀色に光るボールを手にもちながら、
作業する手は休めない。

最後、黒鋼との関係が変わる前に作った国は、
ピッフル国だった。

ボールにはいった黄色い液体をひとすくいし、
火をつけ温めたフライパンに、伸ばす。

「小狼君、モコナも遅いなぁ…。
調べものをするって言ってたけど」

時計で時刻をみて、金髪の青年は、ふぅと息をつく。

玖楼国でさくらと別れてからまだ旅をつづけている。

今いる国は穏やかな気候の国で、治安もいい。

それを踏まえた上で、「まぁ大丈夫かな」とファイは一人ごち。

焼けたパンケーキを皿に載せ、たっぷりと蜂蜜をかけた。

見る間に蜂蜜がしみ込んでいく。

机へ運び、カタンと置いた。

「お待たせ、黒たん。できたよー」

おう、と大柄な忍者が振り返る。

じーとしばらく見た後。


「…あの国で作ったもんか」


黒鋼が呟いた。

肯定の代わりに笑みをファイは向ける。

「おいしいよー?」

食べてみてと促せば、黒鋼の手がフォークへと動いた。

ナイフとフォークを上手く使い、ホットケーキの欠片が口に運ばれて行く。


わざと甘くしたのだが、
てっきり、甘いだの文句を言うかと思えばそれはない。

「シロップかけるー?」

「いい。蜂蜜かかってるだろうが」

「ジャムは?イチゴとかあるよ?」

「いらねぇ」


会話のち、沈黙。


「………」

「………」


食べる黒鋼をファイは不思議そうに、しばらく見ていた。


(つづく)
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