抱きしめたくなる10のお題

□素直 (完結)
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「…………ねぇ、黒たん」


「あ?」

何だと黒鋼が相手に聞く。

ちらりとファイは皿に視線をやる。

皿に乗ったホットケーキはわずか半分。

その時点でおかしい。

確か。

確か、桜都国でのことを思い返せば…。

「…それ、すごく甘いはずなんだけど」

皿と黒鋼を交互に見ながら、ファイが言う。

「それがなんだ」

黒鋼が尋ねると、珍しくファイが眉を寄せていた。

「……」

「……」


部屋に焼き立ての芳ばしい匂いが立ちこめてはいるが、暫し、二人の間に静寂が訪れた。

普通に食べているだけなのに、なぜそんな表情をするのか。


―食べ方が変、とかか?


いや、待てと黒鋼は否定した。

旅の間はフォークとナイフの使い方は知らなかったが、徐々に慣れて来た。

最初はみよう見まねだったが、
これであってるはずだ。

以前、テーブルマナーとかいうものを、
冗談も交え、さくらたちとの旅の間に受けたこともある。

「あの、さ」

神妙な顔をしてファイは顔をあげた。

椅子から立ち、机に乗り出して、黒鋼に近付く。

距離が徐々に縮まったかと思えば、
澄んだ蒼い瞳が心配げに覗き込んでいた。

晴れ渡った空を連想させる、それは黒鋼の顔を映す。

旅の間、伸びた金の髪は今は蒼い髪紐で結わえられ、部屋の窓からほのかに射す光りで煌めいた。

綺麗だ、としか表現できないのは、
きっと己の語彙力があまりないせいだろうとしか言えなかったが。


―…というより。


思考を巡らす黒鋼に、渾名で呼び掛けられる。

「…もしかして、黒たん、」

続けられた内容に黒鋼は、あっけにとられてしまったのだった。
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