抱きしめたくなる10のお題

□甘い涙
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「…だい…じょうぶだよね」

日本国のとある借家で、じっと手にもった箱を見つめる金髪の青年が一人。

竹で編まれた弁当箱の蓋をしめ,
風呂敷につつむ。

今さら、とは思うけれど。

でも、今日は特別だから。

「…緊張してきたなぁ…」

普段は言える言葉なはずなのに。

玄関で、履物をはく音が聞こえ、ファイはそちらへと歩みよった。

はい、と大柄な忍者に弁当箱を手渡す。

荷物の中にしまわれるのを見ながら、黒たん、と渾名を呼んだ。

「今日って、お昼ぐらいに終わるんだよね?オレもあとで行くけど…。いつものお城の所で会える?」

内心緊張しながら、黒鋼に問えば「ああ」と言われる。

「…」

「?何?黒ぷぅ」

ほっと安堵したのもつかの間。

ファイは黒鋼にまじまじと顔を見られた。

「なんかあったのか」

「んー?大丈夫だよ?」

黒鋼へ向けられたのは笑顔だ。

いつもと変わりのない。

だが…。

少しばかりファイの様子が変だった。

黒鋼は眉間に皺を寄せる。

「ほら、早くしないと遅れちゃうんじゃない?」

早く、とファイが急き立てる。

たしかに今、追及しても時間が時間だ。

あとで聞くしかないだろう。

「いってくる」

「いってらっしゃい。また後でね」

笑んでファイは見送った。大柄な背中の背後で戸板が閉まる。

ふぅとファイは息をついた。

とりあえずは、ここまでは大丈夫。

問題は、黒鋼に会った後だ。

今までどおりふるまっていれば、普通に言えるはず。


「…オレも用意して行かないと…」

どきまぎとする心を抑え込みながら、ファイは支度を始めたのだった。







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