抱きしめたくなる10のお題
□甘い涙
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「今日はご機嫌ですわね」
知世姫が声を金髪の青年にかけると、青年が顔を上げる。
「なにかありましたの?」
知世姫が尋ねると、ファイはえっとと言葉を濁した。
なにやらまたあったらしい。
「もしかして黒鋼がファイさんになにかひどいことをしたのですか…?」
真摯な知世姫の表情に、ファイはぶんぶんと首をよこにふった。
「えっと、そうじゃなくて。
今日はオレが頑張らないといけない日なんですー」
知世姫は「あら」と呟く。
今日という日付に、記憶や知識を総動員してさぐるが、別になんら該当しない。
「ファイさんがですの?」
はい、とファイが頷く。
「でもそれで黒たん、不機嫌になったみたいで…」
それは想像するに容易い。
薩摩からすでに耳に入れている。
全く黒鋼は、と心の中で姫巫女は呟いた。
じれったい二人だ。だからこそ応援したくなるのだが。
「よろしければ、私にも教えていただけませんこと?演出でもできるかもしれませんわ」
にっこりと知世姫がファイの手をにぎり協力を申し出ると。
彼人はお願いします、と返答した。
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