抱きしめたくなる10のお題

□一緒にいたいから・可愛いワガママ
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ごほん

咳が部屋に響く。

ごほん、とファイは咳をした。

喉が痛い。

自分の喉にファイは触れた。

「しゃべるな」

ありがとう

口だけうごかして、ファイは黒鋼に笑んだ。

だされ白湯を飲めと、ゆっくりと潤されていく。

飲み終わりファイは、布団へと横になった。

『小声ならしゃべれるよ』

「しゃべるの辛いだろ」

『だって、せっかく黒様を一人じめできるんだもの』

嬉しそうにファイが微笑む。

そうかよ、と黒鋼は照れ隠しにそっぽ向いた。

『ごめんね…。黒様、お仕事大丈夫?』

「きにすんな。今日は、休みだ。
知世にも言ってある。昼からは、少し城に戻るがすぐ戻る。
たぶん、おすそ分けとかそういうのだろ」


きゅっと申し訳なさそうに寄る眉を、黒鋼は触れた。

「おまえが、謝ることでもねぇ」

金の髪を大きな手の指が梳く。

早く良くなってほしい。また笑ってほしい。

床に臥せた姿は、いやがおうにも黒鋼の母を思い出させて黒鋼は眉間に皺を寄せた。


ファイが眠いのかしきりに瞬きを繰り返す。

布団をかけなおそうと黒鋼が腰を上げると『待って』と小声で制止された。

『寝るまで手にぎっててくれる…?』

お願いに、黒鋼は腰を下ろす。

伸ばされた白い手を黒鋼は握った。

ふふっとファイが笑う。

『ファイに…よくして…もらってたんだ』


双子の片割れの話を魔術師はあまりしたがらない。

話したいときに話せばいいと黒鋼は思っている。

だから無理強いはしたことがなかった。だが、体調もある。

「無理すんな。眠いなら寝ろ」と言いたかったが、黒鋼は口をとじた。



しばらくして、すぅと聞こえてきた寝息。

髪を梳けば、額に汗が浮かんでいる。

繫いだ手を離すのは名残おしかったが、額に口づけをし。

黒鋼は水をくむための桶と布を探しにたちあがった。

その刹那、魔術師がふわりと笑む。

夢を見ているのだろうか。

せめて夢の中だけでも。


「おまえのかたわれに逢えてたらいい」


ぽつりと黒鋼は呟く。

戸をあけて部屋を出るときに微かに渾名が聞こえた気がしたのは、気のせいではないと思いたいが。

がりがりと照れ隠しに黒鋼は頭を掻き、頬の赤みをどうしたものかと少しため息をついた。





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