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□「占める・絞める・閉める」
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 女だけの会社はうまくいかない。どんな老人でもいいから、男をひとりおくべきだ。
 という通説がある。周りが女ばかりになると身なりに気を使わなくなり、揚げ足取りだの悪口だのが横行するからだという。

 では、男ばかりになった部屋はどうか?

 決まりきっている。会話の大半を占めるのは、高校生がするような、ワイセツで下世話な話。これしかない。普段、それを止める役割を担う者───例えば、自分のプライベートを頑なに語りたがらない、スカした『シラけさせ屋』のイルーゾォが居ない。からかわれた挙句に顔を真赤にして怒る、マンモーニのペッシが居ない。その兄貴分もいない。

 アジトのローテーブルには、普段はあまり呑まれない種類の酒の瓶、慰み程度のつまみ。グラスは人数分の四。議題は移り変わり、白熱した論議は女の好みについて、に移り変わっている。

「乳は重要だ、乳は。Cより下は少々残念だ」

 C、のだいたいの大きさを手で形作ったホルマジオの主張を、メローネがフンフンと聞く。

「C以上、なるほど。DかEならベネ、F以上ならベリッシモか」

 ホルマジオが「exactly(そのとおり)!」と指差す。指差されたメローネが手で作るC、D、E、F、少しづつ膨らみを大きくした手の広がりがほぼ実寸なのには、さすがに誰も気がつかない。
 今日は薄赤い色のレンズのサングラスをしたメローネを、ギアッチョが覗きこむ。

「メローネは熟女か、ケツか?いつだったか、ターゲットの嫁に舌なめずりしてただろ」

 ギアッチョは組んだ足の自分のかかとを、コツンコツンと指で二度、叩く。眼鏡の奥の目をさぐり、メローネは証言する。

「あれは足首が良かったのさ。美味そうな太もも、膝で締まる、ふくらはぎで膨らんで、足首でまた締まる」

 メローネは「締まる」の所で手を握って見せる。リゾットの前に置かれたグラスが空になっていたので、常温のブランデーを雑に注ぐ。炭酸がすっかり弱まった炭酸水を、これも雑に継ぎ足してギアッチョに差し出した。氷がないからだ。ホワイト・アルバムで適当に凍らせて、ギアッチョはリゾットに差し出した。

「で、リーダー。アンタだよ。溜まるモンは溜まるだろ、どんなオンナに出したい?」

 気を使う相手がいないと、生々しい言い回しが増える。ギアッチョの放った下品な言葉を、リゾットさえも咎めない。

「そうだな。───月みたいな女、がいいか」

「ヒョオ!詩人だなァ、オイ!いいじゃあねーの、アンタらしくってよォ」

 ギアッチョとホルマジオがゲラゲラ笑った。メローネは目と鼻の穴を膨らまして、リゾットを見たが、リゾットは柳に風と受け流し、自分の部屋へと退散してドアを閉める。脂が溶け始めた食べかけのサラミと、フリルをカサカサに乾燥させた生ハムに未練は無かったようだ。


「なぁ、リーダーがさっき言った女の好み、どういう女だと思うよ?」

 あれだけ笑っていたくせに、肝心の部分がイマイチ通じていなかったギアッチョが言った。

「静かな女ってことだろ?あと、月の満ち欠けみたいに、日によって姿が変わるとか。体型が、とは思わねぇが、化粧やら服装やらがコロコロ変わって飽きないような」

 こちらもイマイチ解っていなかったようなホルマジオが、こじつけを語る。ギアッチョが何かひらめいたように、だが声を落として口を開く。

「まさか『月のアレ』がイイって意味じゃあないよな?血に飢えた男、リゾット・ネエロ!!」

 ギアッチョは自分の言葉に自分で笑い、ホルマジオがウゲェ!っと喉を抑えて吐き出す真似をした。ブーツのかかとが二度、踏み鳴らされる。だとしたら、かなりアレな趣味すぎて理解に苦しむ。

 下衆な会話を聞きながら、リゾットとは一番長い付き合いになるメローネだけが、その冗談の意味を理解していた。
 酒の席の馬鹿話に水を差す野暮はしない。というより、個人的な心情による部分があって、二人に真意を教えてやるつもりはなかった。




『夜だけ通ってくる女、って意味だよ』

 何にせよ、最低な男だ。
 と、メローネはぬるいブランデーを舌で弄んだ。


thee end



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