15万打記念
□小さな君の世界を守る!
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「初めまして、主演のグラハム・エーカーだ」
きらりと光る真っ白な歯を見せながら、惜しみない笑顔を浮かべて彼、グラハム・エーカーは手を差し出した。
「わわ、名前です!」
差し出された手を躊躇いがちに握り返しながら、たどたどしく自己紹介する少女にグラハムは笑みを浮かべた。
彼は仮面レンジャーガンダムの主演を務める今をときめく人気俳優である。
都内で行われるイベントのバックヤードパスが当たったため、こうして楽屋に遊びにこられたわけだ。
「君は?」
「刹那・F・セイエイ」
「少年も観てくれているのかな?」
「…OOシステムに感銘を受けた」
そしてそんな名前の本日の保護者は同じ仮面レンジャーファンという刹那だ。
刹那の言葉にグラハムは分かっているじゃないか!と気を良くして見せた。
「それで二人は兄妹かなにかか?」
「違うよー、せっちゃんは名前のはつこいのひとなんだよ!」
「ほぉ」
果たして初恋というものを理解しているのかも危うい少女の言葉に刹那は相変わらずの無表情だが、グラハムは意味深な笑みを浮かべた。
「君は私のことは好きかい?」
「うん!グラハムはビリー博士と悪い人をやっつけてくれるでしょ?とってもかっこいい!」
「それは光栄だ」
そう言うが早いかグラハムはひょいと名前の小さな体を抱き上げ、今や子供だけではなく保護者のお母様方のハートを掴む甘い笑顔を浮かべて見せた。
「ではどうだろう。少年はやめて私を好きになってみては」
いつもの人好きする優しい笑みは息を潜め、爛々と輝く瞳はまるで獲物を狙う獰猛な猛禽類のようだ。
これがもし恋を知っている、ある程度年端のいった女なら誰しもが魅力されたであろうその甘いマスクと言葉は、名前には当然通用しなかった。
「せっちゃんたちは名前にとって一番なの。誰もせっちゃんたち以上にはなれない」
まるで一端の女のような台詞に、グラハムは小さく瞠目した。一瞬、この少女から色気すら感じてしまった。不思議な少女だ、とグラハムはまた笑みを零した。
「愛されているな、少年!羨ましいぞ」
「当然だ」
きっぱり言ってのけた刹那にグラハムの笑いは大きくなるばかりだ。
「名前、私はこれからも君がいるこの世界を守り続ける。君と少年が、幸せに暮らしていけるように…」
それはもちろん劇中の仮面レンジャーとして、という意味なのだが、どうも彼が言うと口説いているように見えてしまう。頬に添えられた指が何とも厭らしい。
いよいよ刹那は彼の腕から名前を奪還したのだった。
「グラハムかっこよかったー!ね、せっちゃん!」
「……あぁ」
その後、事務所に戻った二人は仮面レンジャーガンダムの話題で持ちきりだ。
そんな二人の背後でがっくり肩を落としているのは名前の保護者であるロックオンで。
「どうしてプリキュアじゃないんだ…女の子なのに…」
「張り切りすぎてエンディングのダンスまで覚えたってのにな」
「…ロックオン……」
哀れすぎる保護者を揶揄する者はおらず、静まり返ったオフィスに場違いな少女の愛らしい笑い声が響くだけだった。