15万打記念

□好きな子ほど
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「最近太ったんじゃない?」

オブラートに包むことなくカノンがズバリとそう告げれば、ぎょっと名前が目を剥いた。
女性というのは少なからず常に自身の体型を気にしているもので、『太った』という言葉に敏感だ。
名前も例に漏れず、しかもそれが女よりもずっと女っぽい彼に言われたとなると、それは酷く大問題だった。

「太った?本当?」

「太ったわね。ほっぺたなんて丸々してるじゃない」

丸々なんていうのは些か言い過ぎだが、カノンは自分の言葉に打ちのめされる名前の表情が可愛くて、いつもついからかってしまう。

「ま、丸々……」

案の定頬肉を引っ張り青い顔をする名前に思わず笑みがこぼれそうになる。カノンは自分の遣える上司が彼女を虐めて楽しんでしまうのも無理はない、と心密かに思った。

「おいで。散歩で肥満解消しましょう」

そんなことを言えば「ひ、肥満!?」とうなだれながらも疑うこともなくついてくる。差し出せば躊躇いながらもそっと重ねられる手。こんな素直なところも彼女の魅力の一つであるとカノンは思う。


「綺麗…」

名前は花花咲き誇る屋敷の庭園が好きだった。事あるごとにここに来てはただぼうっと庭に見取れている。
その後ろ姿を見つめる上司に、その二人を見つめる自分。なんとも不安定な繋がりではあったが、今となっては良い関係性であると思えるようになった。

「私そんなに太ったかなぁ…」

庭園に見とれていたはずの名前が突然そんなことを言うものだから、カノンは一瞬、何を言われたのか分からなかった。そういえばここに出てきた理由がそれだったな、と思い至り、無責任な話だが、正直自分の発言自体を忘れていた。

「いい?ダイエットに最も効果的なのは性行為よ!」

「ぶっ!!」

「気持ち良いしダイエットになるなんて一石二鳥ね。いや、名前がその気になれば殿下も喜ぶし一石三鳥!」

「何言ってるの!!!」

「それとも殿下じゃなくて私が相手してあげようか?」

ニヤリ、と淫靡な笑みを浮かべるカノンに名前の口から二の句が出ることはなく、かちーんと固まった体に笑みが漏れる。それを良いことに顎を掬い、顔を近付ければ、ようやく名前がひー!と悲鳴を上げた。

「やめ!やめてー!!」

「あら、良いじゃない、減るもんでもないし」

「ひっ、」

体を抱きすくめられ、すぐ眼前に迫ったカノンの顔に名前はぎゅっと目を瞑った。


「ストップ」


もうあと数p、なんてところでかけられた制止の声と両の手で塞がれる名前の唇。カノンは思わず小さく笑った。

「あら、いらっしゃったんですね」

にこり、と笑って見せれば、名前の背後で彼女の唇を死守したシュナイゼルが同じように笑う。

「ふないへる…」

唇を塞がれているため、聞き取りづらい音の名前の呼びかけに、シュナイゼルはようやく彼女の口を解放した。

「名前、変態には気をつけなければいけないよ」

「誰が変態ですか。私はただ名前をイジめて困らせるのが好きなだけです」

「それは分かるが…」

「分からないで下さい!!」

名前の切実な悲鳴が美しい庭園に木霊する。
今日も良い天気だ。
 

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