15万打記念

□狂宴の幕が開く
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母亡き後、後妻にやってきた継母と連れ子に忌み嫌われ、辛い毎日を送ってきた。いつかきっと救われる。そう夢見て――。

「……」

名前は無惨に破り捨てられたドレスを見て、はらはらと涙を零した。
今日は王宮の舞踏会。仕事を全て終え、ドレスを用意することができたなら、一緒に連れて行ってくれると言う継母の言葉を信じて今日一日を頑張ってきたというのに、その仕打ちは酷いものだった。

「頑張ったって…何もいいことなんてない…」

「あら、そんなことはないわよ」

独り言に返ってきた声に名前が驚いて振り向けば、そこには女なのか男なのか判別のつかない、中性的で美しい人物が立っていた。

「誰、ですか…?」

「あら、ごめんなさい。私はカノン。魔法使いよ」

「魔法使い……ですか……」

「何よ、ノリの悪い子ね。まぁそんなことはどうでもいいとして」

どうでもいいことはないんじゃないか、と思いつつも安易につっこむこともできず、名前はピタリと止まった涙の名残を手のひらで拭い、自称魔法使いの言葉を待った。

「要はあなたが舞踏会に行きたいか行きたくないかなのよ。え?行きたい?あらそう、仕方ないわねそこまで言うなら協力してあげる。はい、一名様ご案内〜」

矢継ぎ早に告げられたカノンの言葉を理解する間もなく、彼の手から生み出される魔法にただ目を見張った。
美しい馬車、美しいドレス、美しいガラスの靴。舞踏会に行くにも申し分のない装備。感動で言葉を失う名前を、魔法使いはさっさと馬車に押し込めた。

「12時までには帰りなさい。魔法が解けてしまうから」

「は、はい!あの、ありがとう…!本当に嬉しい」

「いいえ、楽しんでらっしゃい」

美しく微笑むカノンに押されるように馬車が動き出すのを確認して、魔法使いは小さく溜め息をついた。
舞踏会が彼女の思い描く夢の世界なら良いのだが、カノンの知る限り、あそこには一筋縄ではいかないような曲者がいる。彼に目をつけられれば、と考えるだけでおぞましい。しかし、そこは魔法使いの知るところではない。彼女が望んだことだ。それを自分は果たしただけ。

「吉と出るか凶と出るか…」

それもまた運次第か、と小さな独り言を残し、魔法使いは姿を消した。








「う、わぁ…」

今までに見たこともない煌びやかな世界に名前は感嘆の声を上げた。きらきら光るシャンデリアや内装は美しいの一言に尽きる。

「もし」

それらに見とれていれば、背後からかけられた声。振り向いて、名前は思わず瞠目した。
この宮殿に負けず劣らずの美しい男が、そこには立っていた。絹のような金糸の髪、何もかも見透かしてしまいそうな薄紫の瞳、全てが美しく芸術品のようだ。

「舞踏会にいらした方かな」

「あ、はい」

名前の返事に男は美しく微笑して見せる。彼の名はシュナイゼルといった。どこかで聞いた名だ、と思いつつも思い出すことはできない。
ただ彼との一時は楽しく、名前は時が過ぎるのを忘れた。

「あ、」

ボーン、と時を知らせる鐘が鳴る。それが12回鳴るのだと気付いたとき、名前は魔法使いの言葉を思い出し、青ざめた。魔法が解けてしまう。

「わ、私、もう行かなきゃ…!」

お暇を告げて去ろうとした手をがちりと掴まれた。驚いて彼を見やれば、男は相も変わらず美しく笑うだけだ。

「どこへ行くと言うんだい」

「か…帰らなきゃ…」

「帰る?どこへ?」

さっきまでの人の良い笑みは息を潜め、同じ人物なのに背筋が凍る思いだ。触れられた手首が冷たい。

「い、家に…帰らなきゃ…」

「家?君の家は今日からここだよ」

「え…?」

鐘が鳴り響く。12回。それは魔法が溶ける合図。夢は終わる。


「君はずっと――私のそばにいるんだよ」


新たに始まったもの、それは悪夢。





煌びやかなダンスホールとは対照的な暗すぎる廊下で、美しいドレスも美しいガラスの靴も消え、みすぼらしいワンピースに包まれた肢体を男の大きな手が犯す。
胎内を行き来する長い指にロクに抵抗することもできずただ体は強張り震えることしかできない。そもそもこんな行為自体初めてなのだ。

「はぁ、あ…」

指よりも圧倒的質量の物が膣口にあてがわれる。怖い。その一言に尽きた。

「力を抜いて、大丈夫」

優しく諭す男の声が逆に不気味に思えて恐怖を煽り、ぎゅっと目を瞑れば、それが合図のように遠慮もなく彼自身が押し進められる。
体の芯を突くような激しい激痛に、名前は声を出すこともできずに口はぱくぱく開閉を繰り返すだけだった。

途切れそうな意識の中、胎内に広がる熱に辛うじて意識の糸が繋がる。ようやく終わった、と安堵すると同時に聞こえた男の声。

「さぁ、行こうか、名前」

行く?どこへ?その疑問は口から出ることはない。今このタイミングで名前は思い出してしまったのだ。シュナイゼル――シュナイゼル・エル・ブリタニア。この国を統べる、王の名前を…。


「結婚式を始めよう」
 

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