saloon
□定義域
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「思徒様。」
見なくても感じる温かい気配を。
その優しく、呼びかける声を。
好き、 なんだと思った。
この感情が仮に、既存の言葉に当てはまるとするならきっと。
「…思徒様。」
ああ。
俺はこいつの事を好き、かも知れないのか。
自覚した途端、心が震えた。
「好きですよ、貴方を。とても、とても。」
董奉は、俺を後ろからそっと抱いた。
肩に、軽く奴の顎が載る。
ああこいつも、俺の事が『好き』なのか。
それは、今俺の中にある気持ちと同じなのか?
「……」
後ろから、董奉は俺の髪をなでる。
董奉の指が黒い髪の間をさらさらととおる。
──もしも、こいつも同じような気持ちだとしたら。
そう思うと、髪一本一本に神経が通る。俺はびくりとした。
「………」
董奉は、黙ったままゆっくりと髪を梳く。
こんなにこいつがいとおしくて、なんだかもどかしくて、怖くなる、この変な気持ち。
もしもこんな気持ちをこいつも抱いているなら、恥ずかしい、馬鹿らしい、いっそどこかに行ってしまいたいほどで。
左胸に収まっている筈の心臓が、飛び出してしまいそうにどくどくと存在を主張する。
「董奉」
好き、と言ってくれる者が、「あの女(ひと)」が死んでからはこいつしかいなかったから。
だから、解らなかった。
「俺も、…かも知れない。」
それが具体的にどんな感情を指すのかは、未だよく解らないけれど。
背中に伝わる体温。
ほんのりと、幸せな予感。
定義しにくいこの気持ち。
今身いっぱいに感じるそれらを、大切にしたい、そう思った。
.....
あとがき。
5000打記念企画第一作め。
詳しい内容の指定を頂かなかった為、自由に書いてみました。
結構甘めです^^
今回董奉は鬼畜とか変態にせず、すっごーく優しいひとになってます。
誰っ?!?←
リク主様、本当に有難うございます。気に入って頂ければ幸いに思います。
この場を借りて、お礼申し上げます^^
これからもどうか宜しくお願いいたします。