saloon

□定義域
1ページ/1ページ





「思徒様。」




見なくても感じる温かい気配を。
その優しく、呼びかける声を。


好き、 なんだと思った。

この感情が仮に、既存の言葉に当てはまるとするならきっと。





「…思徒様。」


ああ。
俺はこいつの事を好き、かも知れないのか。

自覚した途端、心が震えた。



「好きですよ、貴方を。とても、とても。」


董奉は、俺を後ろからそっと抱いた。
肩に、軽く奴の顎が載る。




ああこいつも、俺の事が『好き』なのか。

それは、今俺の中にある気持ちと同じなのか?




「……」


後ろから、董奉は俺の髪をなでる。
董奉の指が黒い髪の間をさらさらととおる。


──もしも、こいつも同じような気持ちだとしたら。


そう思うと、髪一本一本に神経が通る。俺はびくりとした。


「………」


董奉は、黙ったままゆっくりと髪を梳く。

こんなにこいつがいとおしくて、なんだかもどかしくて、怖くなる、この変な気持ち。
もしもこんな気持ちをこいつも抱いているなら、恥ずかしい、馬鹿らしい、いっそどこかに行ってしまいたいほどで。


左胸に収まっている筈の心臓が、飛び出してしまいそうにどくどくと存在を主張する。






「董奉」



好き、と言ってくれる者が、「あの女(ひと)」が死んでからはこいつしかいなかったから。

だから、解らなかった。






「俺も、…かも知れない。」






それが具体的にどんな感情を指すのかは、未だよく解らないけれど。

背中に伝わる体温。
ほんのりと、幸せな予感。

定義しにくいこの気持ち。


今身いっぱいに感じるそれらを、大切にしたい、そう思った。








.....



あとがき。


5000打記念企画第一作め。
詳しい内容の指定を頂かなかった為、自由に書いてみました。

結構甘めです^^
今回董奉は鬼畜とか変態にせず、すっごーく優しいひとになってます。
誰っ?!?←

リク主様、本当に有難うございます。気に入って頂ければ幸いに思います。
この場を借りて、お礼申し上げます^^

これからもどうか宜しくお願いいたします。


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ