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□※"笑"みる
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『優勝は"えみる"に決まりましたー!!』
『ワァァァァ!!』
『えええ!?』
『やった!やったで浅野!!』
『ゆ―…違う椎葉…!嘘やないよな!!』


電撃的な優勝から一週間。俺らは目が回るような忙しさに翻弄されていた。


"笑"みる


結成から3年目。芸歴としては早い時期で手に入れた栄光。お笑いの頂点に立ったも同然な注目度に目が回っていた。

「もう可笑しなってしまいますよ…。」
「…せやな…。」

激変した環境に、俺ら二人は体力も気力も削られてぐったりだった。それでも笑ってやれたのは、お互いがお互いであるから。大切な相方だし、大切にされる相方でもある。
あまりの人気で振り向かれなかった女性からも連絡が来るようになって、一時は嬉しくてもそのあまりの豹変振りに恐怖症にまで陥って、仕事だけしか見えなくなった時も俺ら二人だったから大丈夫だった。

そう、俺ら二人だったから。


「なぁ…」
「ん?」
「今日、家行ってええかな。」
「……いやや。」
「なんでなん?ボク我慢しますよ〜?」
「うっとい!」
「ちょお、それボクのネタです〜!」


俺は前に、椎葉を襲ったことがある。
その時は俺の家で呑んでいて、酔った勢いもあった。昔から椎葉のことは嫌いじゃなかったし、同性でもイケるくらいの可愛さがあったと思う。
仕事で疲れとストレスが溜まっていた所為に酒なんて流したから珍しく呑み方間違えて、べろんべろんになっていた俺を、まだ酔いきってない奴は介抱してくれた。
女性恐怖症の所為で据え膳喰えず溜まりに溜まっていた性欲はそこでタカが外れて、俺は椎葉を押し倒したんだ。

まあ元々貧弱な上に酔っ払いの力なんか高がしれていて、思いっ切り頬ぶっ叩かれて終わったんやけど。首折れるかと思た。

あれはお互いに悪い夢だったと結論づけて、話は終わる。




「何やねん今日はしつこいなァ。」

呆れた色を含ませながらの"笑顔"を向けてくれるのも、コイツが俺を信じてくれてるから。やから人見知りで友達のおらん俺でも付き合っていける有り難い存在。

「明日やったら付き合うたるから。」
「よっしゃ明日やな!忘れんなや自意識過剰男!」
「しばいたるぞコラ」

こんなやり取りさえ慣れているのが心底嬉しくて、幸せで、
この時間が長く続いてくれれば―‐-…それでよかった。




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