頂き物

□行ってらっしゃい、行ってきます。
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  きれいに着替えが詰め込まれたかばんの口を開け

  ぼくへと見せて確認を取りながらも、彼女の手や口はせわしなく動く。

  その手際のよさに舌を巻きながら何食わぬ顔をして、

  ぼくはそろそろと彼女の背中に手をまわした。



  もし忘れ物があったのなら、それは自分でなんとかするさ。

  あんたの言うとおり、ぼくは世界一の魔法使いなんだから。

  ただひとつとても心残りでつらいのは

  身重のあんたを連れていけないってことだけなんだから。

  いつもなら『あたしも行きたい。それを見たいわ』ってはっきりとねだるあんたが

  今回はそれをしないのは、あんた母親になりつつある証拠なんだからね。



  最近よく見る、突き出たお腹を無意識に守るようにする仕草。

  そんなあんたが世界中に大声で叫びたくなるほどにいとおしい。

  でも、そんな甘い気持ちはつれない一言でしょぼしょぼとしぼんでしまうんだ。



  「・・・何するつもり?離しなさいよ」

  「ええ?・・ソ、ソフィー・・・?」



  華奢な体を包み込んでしまおうとしたぼくの顔の前に

  にゅっと突き出されたのは、血管の少し浮いた小さなこぶし。

  ああ、まったくなんでいつもいつもこうなんだろうね、あんたって娘さんは!
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