やおよろず
□小噺[伍]
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昼過ぎにうつらうつらと船を漕いでいたのだが、烏天狗は堂の中に倒れ込むようにして眠りに落ちていたのだ。
そうして今、周囲の暗さと赤い光から察するに、既に夕刻。
「……お前が来ると夢見が悪い」
「ふふ。それは良かった」
ひどく楽しげな声が鬱陶しくて、烏天狗は視線を逸らして溜め息を吐く。
「溜め息など吐いて…どうしたのです?」
「毎度毎度、人の眠りを妨げるのが好きじゃと思うてな」
「あぁ…」
ひとつ、小さく喉を鳴らす。
伸びた指先、掌が、身を起こした烏天狗の髪を捕らえる。
肌に触れたわけでもないというのに、冷えた熱が烏天狗の体を這った。
「眠っている貴方の、頬に陰りを落とす睫毛の数をね、数えているのです」
「お前、阿呆か」
「おや、酷いですね」
「そもそも何故、人の姿で居るのじゃ。嫌いなものにわざわざ化けおってからに」
「うつけ者に毎度お家を壊されているのです、私まで大きな体でお邪魔は出来ないでしょう?貴方への配慮ですよ」
低く笑う度に、堂へ堕ちた闇が震えるようだった。
冷たい指先で頬を撫でられ、烏天狗は叩き落とすように払い退ける。