やおよろず

□小噺[伍]
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「触れるでない」
「おやおや、冷たいですね。私と貴方の仲ではないですか」
「気色の悪い物言いは止せ、寒気がする。儂で暖を取るのを止めろと言うておるのじゃ」
「ふふ…バレましたか」

スルリ、布擦れの音を響かせ、気配が動く。
眠っていた所為か、日が陰ってきた所為か、冷えた指が触れた所為か、ひどく寒さを感じて烏天狗は無意識に腕を擦った。
横へ落ち着いた気配に溜め息が出る。

「…何の用じゃ、蛇よ」
「しばらく音沙汰の無い、貴方の生死を確認しに」
「お前に案じられるほど老いぼれではないわ、若造が」
「その若造に、毎度、潰されているのはどなたですか?」

硬質な音が響いた。
見れば、堂の床板の上に置かれた真っ白な陶器。
銘の入っていない徳利を持ち上げ、蟒蛇は笑った。

「良いお酒が手に入りました。お付き合い、願えますか?」
「何度言わせれば気が済むんじゃ。儂は酒は好かん」
「酔い潰れた姿を晒すのが、嫌なだけでしょう」

白い髪の間で、真っ黒な瞳が笑う。




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