やおよろず

□小噺[壱]
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石段を上り、朱塗りの鳥居を抜けた先。
小さな境内の真ん中に建つ小さな堂には、一羽の天狗が住んでいた。
今日も今日とてボンヤリと、空を眺めてはポカンと口を開けている。
堂の傾いた扉に寄りかかり、手足をだらしなく伸ばして空を眺めるその姿は、いっそ清々しいほどだ。
真っ白な掌から転げ落ちた饅頭が、ころころと縁を転がった。

「…暇じゃのう」

ポツリと呟けば、答えるように木々の葉が騒いだ。
無造作な長い黒髪と共に風が踊る。
真っ赤な衣が日の光に眩しい。

「…暇じゃのう」

再び呟くと、気紛れな猫のように欠伸をした。

「秋も過ぎ…冬になると言うのに…芋のひとつも食っておらん」

今度は、ふぅと溜め息をつく。
転がった饅頭に目を遣り、爪の先でつつけば、饅頭からはコツンと音がした。
固い。




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