やおよろず

□小噺[肆]
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「烏天狗さま烏天狗さまっ」
「なんじゃ仔狸、妙な声を上げよってからに。鳶が首を絞められたようじゃったぞ」
「風に尻を蹴られただっ」
「…仔狸よ、風に足は生えておらんじゃろうが」

ふうと、烏天狗は煙を吐き出す。
呆れ顔の烏天狗を前に、仔狸はぽんぽん跳ねながら騒いでいる。
風がどうの、尻がどうの。
だんだんと跳ねる高さが増している毛玉を眺め、ふうと、吐き出した息には色がなかった。
目の高さにまで跳ね上がった毛玉を、無造作に捕まえる。
毛玉はついさっきと同じような短い悲鳴を上げた。

「どれ、見せてみろ」
「尻をかっ?」
「腹を見てどうする、尻を蹴られたんじゃろうが」
「やめてくんろ、やめてくんろっ、オラ恥ずかしいっ」
「…何を恥じらっておるのじゃ」
「やめてくんろっ、やめてくんろっ」

ぱたんぱたんと丸い尻尾をぱたつかせて身を捩る。
大きな手から逃げ出そうとしているのだが、いかんせん、じゃれているようにしか見えない。




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